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「あのぉ、朝斗さん…?」
「ん?」
「私は…生徒会の人間ではないんですが…」
前月行われた選挙で見事に当選した琳護先輩は、当然のように朝斗さんを指名した。
なのでさっそく三月である今月から新・生徒会が、発足した訳だけど。
(文化祭実行委員の時と同じ状況ですよね、これ…)
最近お昼を生徒会室で食べるのが日課になり始めていたある日。
部外者である私は日に日にいたたまれなくなって、今日思い切ってそう切り出したのだった。
「俺が許可してるんだから大丈夫」
(うっ、ま…眩しい!!)
そして変わったことといえば生徒会に入ってから、朝斗さんのキラキラオーラが増したことだ。
(微笑んだだけで、心臓射ぬかれます!)
もともと学校のアイドル的存在だった朝斗さんの人気は生徒会に入ってから当然のようにさらに増していった。
明るく気さくな会長派か、我が校の“王子様”である副会長派に二分されて話題になっている。
「そ、そうなんですけど…」
口ごもる私に、朝斗さんが楽しそうに笑う。
(朝斗さん、私には相変わらず甘々なんだもん…)
「優妃は何が心配なの?」
「だって…っ」
だって!朝斗さんと二人きりでランチですよ?
全く邪魔が入らない空間なんですよ?
快適過ぎますよ?
幸せすぎますよ?
幸せすぎて怖いんですよ!!
―――と、嬉しさから声に出してそう問い詰めたい衝動にかられたけれど、なんだかそのあとの朝斗さんの反応が怖いので…―――。
「いえ、何でもないです…」
…―――自重しておきます…。
「言われたとおり生徒会に入って、やりたくもない仕事を手伝ってるわけだからこのくらいの職権乱用は余裕だよ。琳護だって黙認しているし」
ほら。
既に私を後ろから抱っこして座ってるわけだし。
というか首に、キスしないでください。
―――え、待って…。ちょっと…。
「・・・えと、朝斗さん…?」
(嘘…まさか、ここで。…しないですよね?)
反応に困って、赤い顔のまま朝斗さんの顔を見上げると、朝斗さんが私の額に口付けを落とした。
(ち、違いますよっ!?催促したわけではなくてっ!)
ますます赤くなる私の顔を、満足そうに朝斗さんがクスクス笑う。
「まぁ、これで結局、私立大を受ける羽目になったしな…」
「え?朝斗さん、私大受けるんですか?」
初耳の話に驚いて振り向くと、そのまま横抱きにされた。
(え、なぜ?なぜ横抱きに?)
体勢をどうしたらいいのかあたふたする私を楽しそうに見つめてから、朝斗さんがため息をつきながら言った。
「不本意ながらね。父親にも大学は出ておくべきだと説得されて」
「…私、国公立大学だと思ってました」
「それだと試験終わるまで長いから」
――――ん?何が?
「私立大の推薦枠はこれで確保できたし、秋には大学も確定するから。夏休みも冬休みも、たくさん遊べるな」
今年は花火大会も一緒に行けるし、クリスマスも一緒に過ごせるな、と嬉しそうに話す朝斗さん。
「え?」
―――まさか、それで推薦で私立大?
「朝斗さん、それで良いんですか?」
「そもそも大学に興味なんてないからどこでも同じだよ」
そう言ったかと思えば「優妃、髪伸びたね」と言いながら私の髪を弄ぶ朝斗さん。
「もう!またそういうこと言う!」
相変わらず、朝斗さんは私以外に興味がないと言う。嬉しいけれど、うーん…。なんだか複雑。
だけどそれも、今だけなのかな?
大学に入って環境が変わったら…他に興味が湧くものが見つかるかもしれないし。
(それはそれで…ちょっと寂しいな…)
「大学より、早く優妃と一緒に暮らしたい」
「朝斗さん!」
そう言われると反応に困りますってば!!
というか、からかって楽しんでませんかさっきから!!
―――でも、嬉しくてにやけてしまう。
「来年は大学と高校で別々になるし、再来年も大学が別々なんだから・・・今だけだろ?こうして一緒に学校で過ごせるのも」
朝斗さんが寂しそうにそう言うから、私もしんみりしてしまう。
一応私が目指すのは国公立大だし、確かに朝斗さんとは行く大学も違うと思う。
(でも!!)
「たとえ別々になったとしても!私は乗り越えられるって信じてます!だから大丈夫ですよ!」
「…うん。」
大切そうに優しく、朝斗さんが私を腕の中に包み込んだ。
「絶対、離さないから」
そして…私の耳元で、わざと艶のやる声で囁く。
「覚悟してて」
(あぁぁぁ!!!!!)
耳を押さえて口をパクパクさせて悶える私を、朝斗さんが声を出して笑う。
(あぁぁっ、もう!!)
―――私はこの恋で、一生分の幸せを使い果たしたと思う。
「こちらこそ!」
だとしても、挑むところです!
これから先…どんな障害があろうと、どんな強敵が現れようと。
負けません!!
どんな状況になろうとも。
私はずっと。
この先もずっと。
貴方に、―――ただ、恋してるだけですから。




