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恋してるだけ   作者: 夢呂
【第三十九章】のぞむ
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【朝斗視点】254

「優妃」

いつものように、玄関を出たところまで見送りに出てきてくれた優妃に俺は向き直って声をかけた。


「…はい」

うつ向いたままの優妃の肩が、身構えるように軽く揺れた。


――――恭子さんに言われてから…食事をしている間もずっと考えていた。


『言っとっけど、それ、優妃ちゃんのためにはならないぞ』

―――琳護に言われたあの、台詞も。


『―――自分の時間を大切にして欲しいんです』

―――優妃が言った、あの言葉の意味も。


全部。

全部遡って、纏めて考えていた。



彼女に不安を感じさせたくない。

自分が不安になりたくない。


――――そう思って。

それしか…考えていなかった。


「さっきは…ごめん」

「朝斗さん…」


目が合うと、優妃は困ったようにまた顔を伏せた。


「・・・俺は優妃のことになるといつも余裕なくて情けない男だけど、」

俺の言葉に、黙って優妃は首を振った。


「それでも優妃とずっと一緒に過ごしていきたいから」


早く社会に出たいなんて、未熟な発想だとは自覚していた。

だけど止められなかった。

それしか術はないと…思い込んでいた。


―――“俺は…君しか要らない”


だけど君は、そんな俺のために(● ● ● ● ●)それを拒む。

君はそうやって…俺の弱さにも…向き合ってくれる。


だから。


「“向き合うことにする”よ、これから…」

俺の独り言のような呟きに優妃が顔を上げた。


「私も…、私も頑張ります!たとえ傍に居られる時間が今より減っても。想いは変わりませんから!」


(そうだよ…。そうなんだよな…)

つい優妃を、きつく抱き締めてしまう。


「ごめんなほんと、」


分かってたはずだったのに。

優妃が俺を、同じように想ってくれていることは。




『優妃は、離れても平気なんだ?』

『平気に、なりたいです』


―――あの時そう答えた優妃の気持ちを、俺は少しも考えてなかった。



自分も不安に思っているのに。

本当はずっと傍にいたいと思っているのに。


「優妃も、俺と同じ気持ちで…」


でも今は、――――それが分かったから。


「それでも背中を押してくれたのに…」


だから…。


これからは視野を広げて、もっと色んな人の価値観や考え方を吸収して…“自分”を確立していく。


もっと自分に自信をつけて、優妃を護れるくらい強くなって。


優妃を自分の手で、幸せにしたいから。


―――その為にまずは、自分の出来ることは何でも取り組もうと、そう決意した。


「だから一緒に…「一緒に、頑張りましょう!?」

俺が言い終える前に、優妃が俺の両手をガシッと掴んでそう言った。


「私、信じてます!私たちなら、大丈夫です!」


(――――ああ…君はいつも。)


真っ直ぐに見つめて。

そうやって…、欲しい言葉をくれる。


(…好きだ。好きだ好きだ…っ)


「あ、朝斗さっ…く、くるし…」

「ああ…ごめん。」

力を込めすぎた腕を緩めると、腕の中の優妃がふうと息をする。


常に俺よりも先をいって。

俺を真っ直ぐに導いてくれる。

迷子になりがちな俺を…救いだしてくれる。


俺の世界には今、君しか居ない。

もしも、これから先、他に何か目標が見つかるとしても。


(この気持ちがずっと変わらない…自信はあるから)


だから君が望む限り、傍にいたいと。

…―――離したくないと思ってしまう俺の気持ちは…許して欲しい。

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