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恋してるだけ   作者: 夢呂
【第三十九章】のぞむ
307/315

【朝斗視点】253

(―――――彼奴(あいつ)か。)


心の中で、舌打ちをする。


真っ先に浮かんだのは現生徒会長の青木。

一度、教室にまで説得に来たから覚えている。

彼奴が俺の居ない隙を狙って、優妃に近付いたに違いない。


(姑息な真似しやがって…)


以前は俺が生徒会に入るのではと不安に思っていたはずで、入らないと言ったときホッとした顔をしていた彼女が、修学旅行から帰ってくると突然、生徒会に入って欲しいと態度を一変させた。


(一体優妃に、何を吹き込んだ?)


自分()の時間を、大切にして欲しいと。

自分(優妃)以外に、時間を使って欲しいと。


(他の男からの言葉に簡単に丸め込まれるなんて――――…気に食わない…)

  


結局それからお互い、一言も喋ることはなく…気が付くと優妃の家の前に着いていた。


「あら、朝斗くん。帰ったのねー」

玄関先に顔を出すと恭子さんが笑顔で迎えてくれた。

「はい、さっき駅に着いたところで」

恭子さんが好きだと言っていた生八つ橋をお土産に手渡しながら答える。


「あら!ありがとー!どうぞ、あがって?」

ごはん、食べてくでしょ?と恭子さんがいつものように笑顔で言う。

「ちょっと…お母さんっ」

その瞬間優妃が気まずそうに、そんな恭子さんを制する。


「いえ、今日は…」

正直今、優妃と顔を合わせるのはつらい。

口を開いたら、嫉妬で…八つ当たりしてしまいそうだから。


「私も京都の話聞きたいわ、明日も代休で二年生は学校休みでしょう?」

ね、と恭子さんが逆らえない笑顔を浮かべた。


「…じゃあ、少しだけ」

観念して靴を脱ぎ家に上がると、恭子さんが優妃に部屋で着替えてくるように促した。




「―――喧嘩でもした?」

「え?」

優妃が階段を上がっていく音を聞きながらリビングに向かうところで、恭子さんがぼそりと言った。


「分かるわよそれくらい」

そう言いながら、興味津々に目を輝かせている。


「…喧嘩、ではないです」

(俺が勝手に、苛ついているだけで…)


「あの子、最近元気なかったからてっきり…。今日は朝斗くんが帰ってくるし元気になると思ったんだけど」


「…―――すみません」


「なんで朝斗くんが謝るの?」

笑いながら恭子さんが言った。


―――俺は話すことにした。

自分の進路と、その理由。

それに先程、優妃に言われたことに同意できなくてここまで無言で来てしまい彼女を落ち込ませてしまったことも。


「へぇ…。」

恭子さんがふふっと笑った。


「…可笑しいですか?」

「あー、ごめんね。違うの。微笑ましくて、ついね…」


恭子さんがそう言ったあとに、真顔になった。


「そんな風に想ってくれるのはありがたいけれど、優妃の言うことも分かるわ」

「・・・」

「焦り過ぎ。貴方はまだ17でしょう?これからもっとたくさんの人に出会って、色んな人から学んで成長していかなくゃいけないのよ?」


「そうやって今は視野をどんどん広げていくべきだわ。価値観や考え方、色々吸収して“自分”を確立していくのよこれから」


―――“自分”・・・?


「もちろん高校卒業して社会に出ても学ぶことはたくさんあると思うわ。でもそれは本当に貴方したいこと?この先のことは誰にも分からない。その後、優妃と別れることになるかもしれないのよ。」


―――俺の…本当にしたいこと…。


「優妃と別れてから大学に進学しておけば良かったって、後悔する日が来るかもしれない。それを優妃のせいにされても、困るのよ」


「そんなことしないです。」

(俺にとって優妃は…俺の全てだから。)


恭子さんを真っ直ぐに見返しそう答えると、恭子さんが視線をさまよわせてわざとらしく咳払いをした。


「と、兎に角!まずは自分の将来だけを考えてみて。それで本当に何も浮かばないのなら、まずは大学に行くべきだと私は思うわ」


――――自分の将来だけ?


「お互い視野が狭い中で結婚なんてしても、うまくいきっこないわよ」


恭子さんのその最後の言葉が、心に突き刺さった。

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