【朝斗視点】249
『朝斗さん、今日はどこ行ってきたんですか?』
部屋に戻って、いつものように優妃に電話をかけると今日もすぐに優妃は電話に出た。
それがどれだけ俺を安堵させているか、きっと優妃は知らない。
「優妃は毎回それ聞くんだな」
そう言いながら、ついクスリと笑みが漏れる。
『帰ってからのお土産話っていうのも楽しみだなと思ってたんですけど、やっぱりその日あったこととかってその日のうちに聴きたいなって』
電話越しの優妃の声。
(癒される…)
『…ダメ、でした?』
「いや、ダメじゃないよ?」
遠慮がちにそう訊ねる彼女に、俺は笑いながら応える。
「今日は…大阪駅から―――」
“大阪駅”で思い出してしまった。
琳護の写メと、それと同時に…琳護に言われた言葉を。
『あの子がそれを喜んでくれると、お前本気で思ってんのか?』
(―――仕方ねーだろ…)
俺だって分からないんだよ。
どうしたら安心できるのか。
『言っとっけど、それ、優妃ちゃんのためにはならないぞ』
“優妃のためにならない”…なんて、分かってる。
だけど大学に行って離れ離れになるよりも、早く自立して優妃の傍に居たいと思うのもダメなのか…?
(なら…どうしろっていうんだよ…)
―――やり場の無い苛立ちが沸き起こる。
『…斗さん?大阪駅が、どうかしたんですか?』
受話器越しに優妃の声がして、我に返る。
「いや…どうだったかな―――」
咄嗟に、曖昧に答えることしか出来ない。
自分でも何が正しいのか、正直分からなくなっている。完全に迷子だ。
『え、朝斗さん今日のことなのに覚えてないんですか?』
俺の言葉をそのまま信じて、驚いた優妃に少しホッとする。彼女は疑うことをしない。
「興味ないことは、頭に残らないんだ」
―――俺は、君のことばかりで。
それ以外は何も変わっていない。
君がいない時間は、興味がなくてつまらない。
―――生きている価値を見出だせない。
「…早く優妃に逢いたい」
『あ、朝斗さんっ!?』
そう切実な想いで呟いた言葉に、優妃の声が裏返った。
(顔、赤くなってるんだろうな。)
そう思ったら自然と口元が弛むのを感じた。
俺には君しか要らない。
―――君を繋ぎ止める術を知りたいんだ。




