246
「君は、早馬朝斗が生徒会に入ることに反対したのか?」
少し教室から離れた場所で、青木生徒会長が眼鏡に手をかけながら言った。
「え…」
私はすぐに答えられず、言葉を選んでいた。
反対していないと言えばそれは嘘になる。
だけどそれは、私の我が儘だと自覚しているから。
だから情けなくて…言えなかった。
「それは…」
「君も知っていると思うが、来週は生徒会会長選挙だ。」
言葉を詰まらせたままの私に、生徒会長が言った。
「君は生徒会のことを何も知らないようだから説明しておこうか。――――会長になった者は副会長を指名することができるんだよ。」
「え?」
(指名…?じゃあ…琳護先輩が当選したら朝斗さんは…。)
すぐさまそんなことを推測してしまい、ドクンドクンと心臓が緊張感のある音をたて始めた。
「もちろん拒否権もある。だが俺としても、副会長には早馬が良いと思っている」
生徒会長が、苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「まぁ…あいつの見た目は癪に障るが。文化祭実行委員長としての仕事ぶりは確かだったからな…」
生徒会長の言葉に、私は素直に納得できた。
確かに朝斗さんは、文化祭の時すごく仕事をテキパキこなしていて、皆をまとめていた。
文化祭も問題なく盛り上がって大成功をおさめたのは、朝斗さんが頑張ってくれたからだ。
だから琳護先輩が生徒会長になったら、その片腕として…朝斗さんは誰よりも相応しいと思う。
「実に勿体ない話だと思わないか?」
「…はい」
凄いと思う。
皆に、必要とされていることが。
実力を認められる、そういう特別な存在であることが。
だからやっぱり…折角必要とされているのにそれを断るなんて…勿体ないと思う。
「君は、あいつが引き受けない理由を知っているんだろ?」
「私が言わせたと…言いたいんですか?」
生徒会長の言葉に、つい喧嘩口調になってしまう。
ムキになってしまったのは、自分の言っていることが図星だからかもしれない。
「そういうわけではない。早馬が副会長を引き受けないのは君のせいだろうとクラスの女子達が口を揃えて言うものだから、それを確かめに来たんだ。―――違うのか?」
生徒会長は冷静にそう言うと、私をじっと見つめ返答を待った。
「・・・・」
(私のせい…)
ショックだった。
まるで私が朝斗さんの足枷になっているみたいに聴こえて。
(周りからはそう見えてるんだ…)
「まぁ、」
足元に視線を落としたまま黙りっぱなしの私を見て、生徒会長が続けた。
「君の存在が、彼の自由を奪ってることは確かだよな」
その言葉がストレートに胸に突き刺さった。
「そんなこと…」
“無いです”と言い切れない自分が情けなくて嫌になる。
(―――私の、せいで…?)
「あいつのことは、よく見ていたから分かるんだ」と、生徒会長が付け足すように言った。
「早馬は夏休み明けから徐々に変わっていった。」
生徒会長の言葉は錘のように、私の心を深い闇に沈めていく。
「今、あいつの世界には、君しかいないみたいだ」




