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恋してるだけ   作者: 夢呂
【第三十七章】バレンタインデー
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翠ちゃんの家から帰る途中、家の近くの道端で偶然一琉に会ってしまった。


「あ…」

なんて声をかけようか迷っているうちに、一琉は私から目をそらして先を歩いていく。


(一琉…)


そうだよね。

私なんかと話したくないよね…。

クリスマスも約束してたのに、結局一緒に過ごしてないし…。

私、一琉のこと傷付けてばかりだったよね…。



一琉の後ろ姿を見つめながら、とぼとぼと歩く。

どんどん距離が空いていき、一琉の姿が小さくなっていく。


(ごめんね…)

一琉の背中にそっと謝ってみる。


悪いのは私。

…分かってたはずなんだけど。

胸が苦しいよ。



土曜なのに珍しく制服姿の一琉。

(きっとどこかで弓道の試合があったのかな?)


手には大きめの紙袋。

(あれ、全部チョコなのかな?)


――――なんて、私には関係ないよね…。





家の前で自然と足を止め、寂しさからついうつ向いていると、近くに人の気配がした。


「いつまでそこにいるの?さっさと家入れば?」


顔を上げると目の前に、一琉が立っていた。


「・・・一、琉?」


驚きのあまり、顔を上げたまま固まってしまった。

そんな私の頬を、思いがけず涙がはらりと伝った。


「なんで泣くんだよ」

一琉が制服の袖口で、私の涙を少し乱暴に擦り取った。


「もう、話せないと思ったら…悲しくなって」

私のそんな言葉は、また一琉を傷付ける気がした。


「―――・・・ごめん、何でもない」

だから慌てて、その言葉を打ち消した。


「はぁ…」

一琉が溜め息をつくと目をそらして吐き捨てるように言った。

「なに、デートの帰り?」


朝斗さんの名前を出すのも少し躊躇いながら、私は答えた。

「ううん。朝斗さん…修学旅行中なの」


今日は友達とガトーショコラ作ったんだ、とケーキの入った箱を少し持ち上げてみせると、一琉が意外そうな顔をした。


「へぇ。“友達と”…ねぇ。―――どうせ失敗したんだろ?優妃不器用だし、料理とかしないし。」


そう言って意地悪を言って笑う一琉が、なんだかいつも通りで胸が熱くなった。

(あ、どうしよう…また涙が…。)


「なっ、失礼な!!ほら見て、上手に…」

涙を出さないようにわざと明るくそう言いながら、箱の中を開けて見せてあげると一琉が顔を近づけた。


「あ!え、ちょっと!食べるなんて酷い!」

「ケチケチすんなよ。どーせ一人で食べるつもりだったんだろ?太るよ?」


口元についていたガトーショコラの食べかすを手で取り、ペロッと舐めとりながら一琉が意地悪な微笑みを浮かべている。


「・・・っ!?」

その仕草に色気を感じて、一瞬ドキリとした。


「優妃にしては、まともに出来てるじゃん。じゃあな」


唖然としている私にそう言うと、道に置いていた紙袋を手に持ち、一琉は自分の家へと入って行った。


「…もうっ!ちょっと一琉!」


私は怒った声をあげていたけれど、いつも通りに接してくれた一琉の優しさが心にしみて、また涙腺が弛んでしまった。


(ありがと…)


一琉の気持ちには応えられなかったけれど、

それでも声をかけてくれて。

私といつものように話してくれて。


それで私が今、どれだけ救われたか…、一琉、分かる?


(ありがと。幼馴染みでいてくれて…。一琉)

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