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恋してるだけ   作者: 夢呂
【第三十七章】バレンタインデー
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【翠視点】242

「いつまでうちで寛いでいるんですか、高梨先生?」

優妃が帰った後も、なぜか我が家のリビングに居座る高梨先生を私は冷ややかな目で見る。


しかも母まで買い物に出掛けて行ったからこの家に二人きり。


なんなの、この状況。

変に緊張するんだけど。



「酷いなぁ、みーちゃん。部活終わってすぐ来てやったのに」

「いや、呼んでないし」

私がすかさずそう返すと、先生が「ぶれねぇなぁ」と言って笑った。


「で?みーちゃんは“本命”にいつ渡すんだ?明日か?それとも明後日学校で渡すのか?」

先生がニヤニヤしながら私を見る。


“本命”って、琳護くんのこと言ってる、よね?

だから、いつの話してるのよ。

てか、なんで…そんなこと聞くの?

カズくんには関係ないじゃん。


好きな人に、恋話をふっかけられることほど残酷なことはないと思う。


「・・・渡しませんよ…」


私は不機嫌に顔を背けて答えた。


(というか、“本命”になら今、渡したし。)


気付かないんだろうな、この人。

まぁ、母に呼ばれて来た時点でまさかこれが“本命”だなんて気付くわけないか。


「告白するんじゃなかったのか?冬休み前にそう言ってたよな?まだ出来ないなんて…」

「―――“素直じゃない”って?」

イラッとして、私は先生の台詞(ことば)を奪った。


分かってる。

先生が言いたいことは。


「先生はいつもそれですね」

「みーちゃんがいつもそう(● ●)だからだろ」


私が皮肉を込めてそう言うと、先生がすぐに言い返してきた。


またそうやって余裕な表情(かお)して。

上から目線でモノを言う。


(ムカつく。)


「そうやって、大人ぶらないでよ」

「大人ぶってるのは、翠だろ?」


言い返す先生の声は、珍しく怒りの感情がこもっていた。


「…は?」

「お前はまだ16だろ?そんな何でも達観視するのやめろよ」


(なにそれ・・・)

「そんな事してな…」

私のそんな反論する声は、弱々しく床に落ちた。うつ向く私に、今度は優しくカズくんが声をかけさる。


「良いんだよ、傷付いたって。…苦しんだって。そうやって人は成長していくんだから。―――…だから動く前から決めつけて、諦めるなよ?」


(ムカつく、ムカつく、ムカつく。)


「何…言ってんの?」

不機嫌と戸惑いが混ざり合った私の心の声が漏れた。


カズくんは、私のこと何にも分かってない。

私が琳護くんに告白していないのは、別に素直になれていないからではないのに。


“傷付いて”、“苦しめ”って?

“諦めるな”って、貴方(● ●)がそれを言うの?


「今いっぱいぶち当たって、自分を成長させていけよ?」


頭をぽんと撫でるその手が。

悔しいけどトクンと心臓を甘い音に変える。


(…ムカつく。)


そうやって、私を子供扱いするから。

カズくんが私を、まだまだ子供だと思ってるから。


(たま)らないんだ。

埋まらないこの差が。

埋まらないこの気持ちが。


「じゃあ、言うけど」


好きなのに。

嫌いなんだ。


「私が好きなのは…―――カズくんなんだよ」

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