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「美味しそうにできたねー」
「冷ましたら、粉砂糖ふるって食べよ?」
朝斗さんが修学旅行へ出発したバレンタインデーの土曜日、翠ちゃんが家で一緒にガトーショコラを作ろうと誘ってくれた。
二人で作ったガトーショコラが、上手く焼きあがり、いい匂いが鼻をくすぐる。
エプロンを脱いで、翠ちゃんとガトーショコラを冷ましている間、リビングでティータイム。
美味しい紅茶をいただいていると、家の呼び鈴が鳴り、翠ちゃんママが玄関へと向かった。
「こんにちはー」
「カズくん!どうぞ、あがって?」
(!!)
その声が玄関から聴こえてくると、翠ちゃんがむせた。
「翠ちゃん?大丈夫!?」
翠ちゃんママと楽しそうに話しながら、高梨先生がリビングへとやって来た。
今日は髪型もラフだし眼鏡もない。それに何より笑顔を見せている。
クリスマスの時と同じで、今日はプライベートなんだなと思った。
(本当に、別人みたいで…慣れない…)
「な…、なんで先生がここに?」
驚きのあまりソファーから立ち上がった翠ちゃんに、高梨先生が微笑んで答えた。
「“葵さんから連絡貰ったから”、だけど?」
「ほらせっかくバレンタインだし、よかったらガトーショコラでもどうかしらと思って!」
両手をポンと合わせて、にこやかに翠ちゃんママが言った。
「お母さん、何勝手に…」
「あら、駄目なの?翠も誰かにあげる予定でもあった?」
優妃ちゃんみたいに、と付け加えられて私は顔が赤くなる。
「―――…あげればいいんでしょ、あげれば」
翠ちゃんママの言葉に、翠ちゃんは言い返すのをやめ、仕方なくという感じでキッチンへと向かい、ガトーショコラを切り分け始めた。
「はい。」
表面に雪が降ったみたいに粉砂糖をふるって白くなったガトーショコラを一切れ、可愛い柄のお皿に乗せて、フォークと一緒にリビングへと運んでくると、翠ちゃんがぶっきらぼうに先生の前に置いた。
「どうも」
先生は嬉しそうに微笑むと、フォークで一口分を口に入れる。
「美味しくできてるな!出来立てだからか?」
先生の言葉に、翠ちゃんが照れた。
(わ。―――なんか、可愛い…)
いや、美人で大人びている翠ちゃんに“可愛い”は相応しくないのかもしれないけど。
私はこの時、そう思った。
「ありがとう、翠ちゃん」
「みーちゃん言うな!!」
翠ちゃんと高梨先生のやり取りを見ながら、私は微笑ましく思いながら、羨ましく思っていた。
(朝斗さんに、逢いたいなぁ…)
まだ修学旅行初日なのに、寂しく思ってしまう私は…弱いのかな?




