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恋してるだけ   作者: 夢呂
第六章【勉強会の日】
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「どした?」


「あ、いや…。なんか急に緊張してきたというか…」


お洒落なカフェレストランの店内に通されたということもあるんだけど、私はとにかくドキドキしていた。


「は?緊張?」


「―――…笑わ…、ない?」


私は少しだけ視線を上げて、一護くんを恐る恐る見る。一護くんはいつも笑顔だけど、この時ばかりは真剣に頷いてくれた。


「―――実は私、男の子と外で二人でご飯とか来たことなくて」


「はぁ!?」

一護くんが呆れたように驚いた。私は少しだけうつ向く。

(それはどういう反応?あり得ないとか、そういう驚き?)


「―――いや、正確にはあるけど。でも一琉(いちる)はそういう存在()じゃないし…」


一琉となら中学の時、学校帰りにとか休みの日にとか何度かあるけれど。そもそも一琉は“男友達”という存在(もの)ではない。


一琉(いちる)?誰?」

私がブツブツ一人で言い訳していると、一護くんが訊ねてくる。


「あ、えっと…―――幼馴染み。」

聞こえてたことに驚きながら、私は答える。


「そいつと仲良いんだ?」


「まさか!その逆だよ。一琉とは居て楽しかったことなんてない…」


そう。楽しかったことなんて、なかった。

だって、言われて続けてきたから。

“友達なんて幻だ”“皆本当の優妃のこと知ったら好きじゃなくなるよ”“僕だけは傍に居てあげる”って。


“本当の優妃(わたし)”って、どんなだろう。一琉がいう“私”がどんな存在なのか、私は分からなかった。今だって、分からない。

だからこそ何かする度に、“私がこんなだから”と思っていた。


「それに…私はこんなだから…ずっと友達もできなくて。でも高校は一琉から離れたくて、私が―――裏切ったの」


“裏切った”と口にしたら、凄く胸が痛んだ。

でも、一琉とずっと一緒にいたら心がボロボロになるばかりだった。だから私は直前で…一琉に黙って進路変更した。


「良かったじゃん」

明るく、一護くんが言った。


「え?」


「優妃、そいつと離れて正解だってこと」

真向かいに向かう一護くんが、真っ直ぐに私に言う。


「―――そう、だね。…おかげで翠ちゃんや透子ちゃんみたいな友達もできたし、」

(こんな私のことを誘ってくれる、優しい友達。)


「一護くんみたいな、男友達が出来たから結果的には良かったのかも」

(こんな私の話を真剣に聞いてくれる友達。)


私は今、これで良かったと思ってるのは本当。

でも、一琉を裏切ったことは忘れられない。


「私には、ずっと一琉しか居なかったから」


「なんだ、それ?」


「…―――あ!ごめん、こんなつまんない話」


聞いて欲しかった。本当は誰かに知って欲しかった。一琉がいつも言うから、“みんな優妃のこと何も知らないのに”って。

でも話す機会が無かったのは私が臆病者で、一琉以外の人と関わることから逃げていたから。

だから…こんなつまんない話、聞いてもらえる日が来るなんて…思いもしなかった。


「つまらなくない、優妃にとっては大事な話だろ?」


(…一護くんは、そうやって―――私の心を修復してくれる)

一護くんの言葉は、いつも私を明るくしてくれる。心が温かくなる。


「お前の中学時代とか、俺や翠や透子は知らねーから」


(本当に、一護くんが皆に慕われてるの、分かるなぁ…)

今までの自分には、関わることのなかった人種。

貴重で、尊い存在。


俺達(おれら)は中学から一緒だけど」


「そうなんだ!それで皆すごく仲良しなんだね」


「お前も、もう一緒だろ」


「え?」


「だから…友達だろってこと」


「あ…はい」

私は照れながら頷く。目の前で“友達だ”って改めて言われたら、くすぐったくて凄く嬉しかった。


言わすなよな…と赤くなった一護くんが、とても好きだと思った。


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