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「え…」
(“もう一回”…って?え、“もう一回”、って?)
朝斗さんから与えられるキスに溺れながらも、頭の中でグルグルと考えを巡らす。
(…そういうこと、です…よね?)
キスの先を期待してるかのように、心音がドクンドクンと徐々に大きく音をたてていく。
朝斗さんが、優しく私の髪を梳かす。その瞳が熱っぽく私をとらえていて、心を射貫く。
そしてその手が下へ下がっていくのを感じ、ドキドキしながら目を閉じて、身を委ねたちょうど…その時だった。
ガチャ…と一階で玄関の開く音。
(あ、…誰か…?)
「…帰ってきたな」
朝斗さんが身体を起こし、顔をしかめながらぼそりと呟いた。
(…――あ、冬哉くんかな?)
そう思いながら、私は閉じていた目をゆっくりと開き、朝斗さんの様子を窺う。
朝斗さんは不機嫌な表情になっていて、私の上から退くようにしてベッドから降りた。
(…あ。)
その瞬間、私は寂しくなって自然と朝斗さんを目で追っていた。
「あ…すみません…」
服を着ているところの朝斗さんと目が合ってしまい、慌ててそらす。
(何見てるの、私ったら…)
「優妃、服着れる?」
その辺りに脱ぎ散らかしていた私の服を手に、着替え終えた朝斗さんが優しく微笑んで、言った。
「あ、は、…はい。」
私は慌てて布団の中から少し腕を伸ばしてそれを受け取る。
「って…!み、…見ないでくださいよ!」
なんでこっちじっと見てるんですか?
着られないじゃないですか!?
「なんで隠すの?…――手伝おうか?」
クスッと妖艶に微笑んで、朝斗さんがベッドに膝をついてこちらに身体を寄せる。
えっ、恥ずかしいから当然隠しますよ。
見せられないですよ、…―――そんな目をされたって…。
…ちょっと、え?なんで手をとるんですか…?
え、からかってるだけですよね?
――――朝斗さん?
「ちょっと…もう!本当に!朝斗さんっ」
「はは。ごめんごめん、優妃がかわいいからつい。」
私の手をとり顔を寄せ、迫る朝斗さんに真っ赤になりながら必死でそう言うと、朝斗さんが笑いながらベッドから降りる。
(“かわいいから”とか!!…もうっ!)
そう言えば私が許すと思って!
―――・・・許しちゃいますよ!もう!狡い人!
制服を着終えた時、ちょうどのタイミングでドアがノックされ、私の心臓がビクンと跳ねた。
(危なかった…!というか、私、髪とかボサボサだ…)
慌てて髪を手で梳かしていると、ドアが開いた。
「朝斗くん、夕飯食べた?」
ジャージ姿の冬哉くんが、そう言いながら顔を出した。
「――――あ、“彼女”来てたんだ?」
冬哉くんが私に視線を向け、言った。
「お、お邪魔してます…」
何となく恥ずかしくて目をそらして、私は頭を下げた。
朝斗さんがドアの前まで歩いて行き、私の姿を隠すようにドアに手をついて立つと、言った。
「夕御飯なら、これから優妃と部屋で食べるから」
「…え?」
(私も、一緒に?)
「そう。じゃあ俺持ってこようか?」
「いい。自分でやるから。優妃、ちょっと待ってて?」
驚いて固まっているうちに、冬哉くんと朝斗さんが話を進めていた。
「あ、私も手伝い…「優妃?待ってて。」
慌てて立ち上がろうとすると、朝斗さんが振り返って私の肩に手を添える。
「でも…」
「身体、しんどいでしょ?そこにいて」
身を屈めて、耳元で。
優しくそう言ったかと思えば、私を甘い笑顔で蕩けさせる。
(う…―――!)
熱い耳を手で押さえて、黙ってうなずく私を横目に、満足そうに微笑んだ朝斗さんが部屋を出ていった。
もう!もう!もーーーう!
大好きですよー!!!!




