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恋してるだけ   作者: 夢呂
【第三十六章】バレンタイン・イブ
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「え…」

(“もう一回”…って?え、“もう一回”、って?)


朝斗さんから与えられるキスに溺れながらも、頭の中でグルグルと考えを巡らす。


(…そういう(● ● ● ●)こと、です…よね?)


キスの先を期待してるかのように、心音がドクンドクンと徐々に大きく音をたてていく。


朝斗さんが、優しく私の髪を梳かす。その瞳が熱っぽく私をとらえていて、心を射貫く。

そしてその手が下へ下がっていくのを感じ、ドキドキしながら目を閉じて、身を委ねたちょうど…その時だった。


ガチャ…と一階(した)で玄関の開く音。


(あ、…誰か…?)


「…帰ってきたな」

朝斗さんが身体を起こし、顔をしかめながらぼそりと呟いた。


(…――あ、冬哉くんかな?)

そう思いながら、私は閉じていた目をゆっくりと開き、朝斗さんの様子を窺う。


朝斗さんは不機嫌な表情になっていて、私の上から退くようにしてベッドから降りた。


(…あ。)


その瞬間、私は寂しくなって自然と朝斗さんを目で追っていた。

「あ…すみません…」

服を着ているところの朝斗さんと目が合ってしまい、慌ててそらす。

(何見てるの、私ったら…)


「優妃、服着れる?」


その辺りに脱ぎ散らかしていた私の服を手に、着替え終えた朝斗さんが優しく微笑んで、言った。


「あ、は、…はい。」

私は慌てて布団の中から少し腕を伸ばしてそれを受け取る。

「って…!み、…見ないでくださいよ!」


なんでこっちじっと見てるんですか?

着られないじゃないですか!?


「なんで隠すの?…――手伝おうか?」

クスッと妖艶に微笑んで、朝斗さんがベッドに膝をついてこちらに身体を寄せる。


えっ、恥ずかしいから当然隠しますよ。

見せられないですよ、…―――そんな目をされたって…。

…ちょっと、え?なんで手をとるんですか…?

え、からかってるだけですよね?

――――朝斗さん?


「ちょっと…もう!本当に!朝斗さんっ」

「はは。ごめんごめん、優妃がかわいいからつい。」

私の手をとり顔を寄せ、迫る朝斗さんに真っ赤になりながら必死でそう言うと、朝斗さんが笑いながらベッドから降りる。


(“かわいいから”とか!!…もうっ!)

そう言えば私が許すと思って!

―――・・・許しちゃいますよ!もう!狡い人!




制服を着終えた時、ちょうどのタイミングでドアがノックされ、私の心臓がビクンと跳ねた。


(危なかった…!というか、私、髪とかボサボサだ…)

慌てて髪を手で梳かしていると、ドアが開いた。


「朝斗くん、夕飯食べた?」

ジャージ姿の冬哉くんが、そう言いながら顔を出した。


「――――あ、“彼女”来てたんだ?」

冬哉くんが私に視線を向け、言った。


「お、お邪魔してます…」

何となく恥ずかしくて目をそらして、私は頭を下げた。

朝斗さんがドアの前まで歩いて行き、私の姿を隠すようにドアに手をついて立つと、言った。


「夕御飯なら、これから優妃と部屋(ここ)で食べるから」

「…え?」

(私も、一緒に?)


「そう。じゃあ俺持ってこようか?」

「いい。自分でやるから。優妃、ちょっと待ってて?」

驚いて固まっているうちに、冬哉くんと朝斗さんが話を進めていた。

「あ、私も手伝い…「優妃?待ってて。」

慌てて立ち上がろうとすると、朝斗さんが振り返って私の肩に手を添える。

「でも…」

「身体、しんどいでしょ?そこにいて」

身を屈めて、耳元で。

優しくそう言ったかと思えば、私を甘い笑顔で蕩けさせる。


(う…―――!)

熱い耳を手で押さえて、黙ってうなずく私を横目に、満足そうに微笑んだ朝斗さんが部屋を出ていった。


もう!もう!もーーーう!

大好きですよー!!!!



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