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恋してるだけ   作者: 夢呂
【第三十五章】好きだから
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【朝斗視点】232

「いよいよ今週末ですね。」

月曜の朝、いつものように待ち合わせ場所に現れた優妃と並んで登校していると、彼女が少し寂しそうな声で言った。


(ああ、やっぱりそうか…。)


―――だから俺は敢えて、気付かないふりをした。


「何が?」

「何って、修学旅行ですよ。準備とかまだしてないんですか?」

土曜日ですよね、出発日、と優妃が驚いたように言う。


「ああ。行くのやめようと思って」

「ええっ?どうしてっ!?」

驚きのあまり、優妃は立ち止まって俺を見上げた。


「―――元々興味ないし。それより優妃と居れたら俺はそれでいい」

優しい微笑みを浮かべ、安心させるようにそう言うと、優妃の表情が曇った。


…喜んでくれると思ったのに。

優妃の不安も、これで解消されると思ったのに。

(なのに、なんでそんな表情(かお)するんだ?)


「サボるんですか…?」

「そのつもり」


俺がそう答えると、優妃はうつ向いたままポソリと言った。

「ダメです、そんなの…」

「…どうして?」

俺が優しくそう訊ねると、優妃は顔をあげて言った。


「折角の修学旅行なのに、行かないなんて言わないでください。私、楽しみにしてますから。朝斗さんのお土産話。」


優妃の不安が解消されるなら、手段を厭わない。

優妃を失わなくて済むためならなんだってしたい。


傍にいて欲しいし、傍にいてあげたい。

――――優妃もそう思ってくれてる(同 じ 気 持 ち)だと思ってた。


そして、いくらでも甘やかして。

俺なしじゃいられないくらいに、甘やかして…―――。

君が、どこにも行かないように。



(――――だけど彼女は、それを嫌う…)


「優妃…?」

「行ってきてください、私は大丈夫だから」


優妃は明るく努めて、笑った。

俺はそれを複雑な表情で見つめていた。


こうなると今、俺が何を言っても駄目なんだろうな…。

優妃は変なところで頑固だから。


「…分かった」

観念して、俺は小さくため息をつきながらそう答えた。

優妃が少しだけホッとしたように口元を緩める。


(優妃にそう言われたら…断れないな)


甘やかされていればいいのに。

彼女はそうはならない。

思い通りにならないのが、“彼女”(香枝優妃)だから。


(だからこっちの不安はなくならないし、もっと束縛したくなる…)



「朝斗さん、」

「ん?」

「だけど、出発の前の日は…時間貰えますか?」


(ああ。そうやって君は、いつも…。)

遠慮がちに、ささやかな願いを口にする。それだけでいいと…健気に願う。


―――それが、俺の心を掴んで離さないんだ。


「…もちろん」

俺が微笑むと、優妃が嬉しそうに笑った。

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