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恋してるだけ   作者: 夢呂
【第三十五章】好きだから
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二月に入り、朝斗さんは引っ越した。


紫さんも幼馴染みの人と同居することになったらしく、アパートは退去することになったそうだ。

だから…あのアパートへ行くことは、もうなくなってしまった。

あの場所での出来事が、完全に過去のものになってしまったみたいで寂しかった…。



―――だけど…。

(あ、)


引っ越した日の翌朝、いつもと変わらず駅で私を待っていてくれた朝斗さんの姿を見つけたとき、何だかすごく安心した。


「朝斗さん、」

朝斗さんは、私の声に顔を上げるといつものように幸せそうに微笑んでくれる。

「おはようございます」

「おはよ、優妃」


自分でも、現金だなと思う。

この微笑み一つで、心が満たされるなんて。

引っ越しの件でさっきまでセンチメンタルになっていたくせに。


朝斗さんは引っ越して、環境は変わったけれど。

でも、私を見つめる瞳は変わっていない。

何を不安に思っていたんだろう。

環境が変わっても、気持ちは変わらないのに。


(アパートに行けなくなったのは寂しいけど、変わらず朝斗さんの隣を歩けるなら…それで充分幸せじゃない)


例え環境が変わっても、お互いが想い合っていたら大丈夫だと、そう思えた。


「優妃、なんか嬉しい事あった?」

朝斗さんが優しい眼差しでそう訊ねるから、私は即答した。

「はい!今日も、こうして朝斗さんと登校できることです」

へへっと照れながら笑うと、朝斗さんが苦笑いで言った。

「優妃、朝からそんな可愛いこと言わないで、キスしたくなる」

「え?」

朝斗さんが顔を近付けながらそう言うと、ボッと赤くなった私を見てクスリと笑う。


「そ、そうだ!朝斗さん、修学旅行ってどこ行くんですか?」

慌てて顔をそらしながら、話もそらす。


「ああ…。うちのクラスは京都」

「良いですねー、京都」

(行ってみたいなぁ…朝斗さんと京都。)

「一緒に来る?」

「えっ?」

朝斗さんが突然そんな事を言うから、心の声が漏れてたのかと焦った。

「冗談だよ。」

朝斗さんが私の慌てっぷりに満足そうに笑いながら言った。

「あーでも…優妃と一緒に行きたかったな」

「朝斗さん…」

朝斗さんが私と同じように想ってくれて。

心がそれだけで満たされる。


「…それは本当」

(きゃ…っ!!!)

耳元でわざとらしくそう囁いた朝斗さんが、耳を押さえて悶える私を見て、悪戯な微笑みを浮かべていた。


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