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「一護くん、ありがとう」
店を出て、暫く歩いたところで私は一護くんに声をかけた。一護くんがその私の声で、パッと腕を引く手を離す。
「正直ちょっと居づらくて、助かった」
翠ちゃんが帰ってしまって、しかも恋愛話で盛り上がり始めてて。入れない話題なのに、帰るとも言い出しにくかったから。
「だろうなと思った」
そう言って、一護くんが笑う。久しぶりにその笑顔を見た気がして、ホッとする。
「…んだよ?」
ホッとしたのが私の表情に出ていたのか、一護くんが少し驚いた顔をする。
「ううん。ただ、今日一護くん楽しくなさそうだなって思ってて。でも体調悪いとかじゃなかったみたいでホッとしたというか…―――」
(何を言っているんだろう…)
でも今日の一護くんはあまり笑ってなかった。どちらかというと話し掛けるなオーラが出ていたというか、近寄りがたい感じだった。でも、杞憂だったようだ。
やっぱり一護くんは、優しくて親切な人。心許せる人だ。
「なぁ、まだ少し時間ある?」
「あるよ」
今日は先輩と約束もない。そしたら私の予定は何もない。今はまだお昼過ぎ、時間ならまだまだ沢山ある。
(そう言えば、お腹すいたかも…―――)
先ほどまでファミレスに居たのに、勉強の為に注文したのはフリードリンクだけ。
「じゃあ、少しだけ時間くれ」
「え?」
(それは、一体どういう意味?)
首を傾げている私に構わず、一護くんが二、三歩先を歩き出す。そして振り返って、言った。
「早く。暑いじゃん」
そう言う一護くんの頬がほんのり赤くなっている気がした。




