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恋してるだけ   作者: 夢呂
【第三十四章】三学期
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「優妃?」


(朝斗さんが生徒会に入ったら、こうして一緒に帰ることも難しくなるのかなぁ。それはやっぱり嫌だな…)


「…優妃?」

「―――あ!はい」

その日の帰り道、朝斗さんに話し掛けられていたのにボーッとしていて反応に遅れてしまった。


「どうかした?やっぱりこないだから元気ないよな?もしかして、今日誰かに何か言われたのか?」

「え?」

“元気ない”と言われてギクリとしてしまった。確かに私、今…沈んでたかもしれない。


「嫌がらせされたとか?困ったことがあれば何でも一人で抱え込まずに言って?」

朝斗さんが隣を歩きながら、心配そうに言った。

「朝斗さん…」

(最初に付き合い始めたとき、朝斗さんのファンクラブの人に色々言われたりしたから?それで心配してくれていたの?)

確かに私たちは冬休みからまた付き合い始めた。だから休み明けの今日はすごく話題になっていたし、痛いほどの視線も浴びたし、陰口も囁かれていたけど。

だけど私はそれも分かっていて、朝斗さんの傍にいる。朝斗さんの傍にいられるのなら、耐えられる。だから、大丈夫。

それよりも、そんな心配をしてくれた朝斗さんの気持ちがたまらなく嬉しかった。


「大丈夫です、何もなかったですよ?」


私は慌てて明るく振る舞う。だけど朝斗さんは心配そうに眉を潜めたまま私を見つめていた。

「じゃあ何考え事か?それとも―――俺、なんかした?」


(あ…。また思い出しちゃった…)

ぎゅうっと胸が締め付けられるような切ない気持ちに襲われる。


「…してないですよ」

私は笑ってみせてるけれど、上手く笑えている自信がない。


朝斗さんは何もしてない。

朝斗さんの周りの環境に変化があるだけで。

朝斗さんは…何もしてないのに。


(どうしてこんな、不安なんだろう…)


「朝斗さん、」


言いたくなかった。

心が狭いみたいで。

だけど…言わないと不安は消えない。

そう思って私は…直接聞くことにした。


「ん?」

「生徒会、入るんですか…?」

朝斗さんを見上げてそう訊ねると、朝斗さんは少し目を見開いた。

「…琳護から聞いたのか?」

私は黙ってただ、首を縦に振る。そして、そのままうつ向いて朝斗さんの答えを待った。



「優妃は俺に、なって欲しいの?」


ギクリとした。

そんな事を言われて、私はなんと答えたら良いのだろう?

正解が分からなくて黙っていると、朝斗さんが言った。

「ごめん。今のは…意地の悪い聞き方だったよな」

朝斗さんが苦笑いを浮かべ、私の頭をぽんと撫でながら言った。

「――…やらないよ?」

見上げた私に、安心させるような明るい声でそう言いながら、朝斗さんは微笑んだ。


(“やらない”?本当に…?)

ホッと胸を撫でおろし、“良かった”と出かけた言葉を、私は喉元で留めた。

(“良かった”…―――?)


「朝斗さんは、それで良いんですか?」

私がそう言わせてしまったのではと、私は慌ててそう訊ねた。

「生徒会なんて、興味ないし。そんなのに時間は割きたくないからな」

朝斗さんは、そう言って笑った。


「それに、優妃との時間の方が大事だから」

「朝斗さん…」


嬉しい。

朝斗さんが、私を優先してくれて。

私と同じように二人の時間を大事だ言ってくれて。


(なのに…どうして?)


何故(なぜ)

胸の中の霧が、晴れないのだろう。


(―――…私、間違ってないよね?)

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