【朝斗視点】221
優妃の話を聞いた俺は、1月2日、久しぶりに自宅に帰った時のことを思い出していた。
―――自宅には既に仁方親子が父と同居していた。
『朝斗くん、』
その日、来月から住む部屋の整理をしていた俺の部屋に仁方さんの息子がやってきた。
彼はなぜか俺のことを“兄貴”と呼びたがっていたが、さすがにそれは嫌だと断ったところ驚くほど落胆し、残念がられた。そして妥協案として「朝斗くん」を挙げてきた。呼び捨ても、優妃と同じ「さん付け」も許したくなかったため、俺はそれを渋々了承した。
冬哉は中学生のくせに、背が無駄に高い。
体格がいいところを見ると、運動部なのだろう。
まぁ、こいつの部活が何だろうと興味はないが。
だが見下ろされるのは、何となく腹立たしい。
『―――スゲー疑問なんだけど、なんであの人と付き合ってるんすか?』
“付き合ってる”という言葉から浮かぶのは優妃しかいない。
『…“なんで”?』
そう問いかけ返す声が、低くなるのが分かった。
『いや、朝斗くんくらいの男ならもっと美人とか選びたい放題いけるじゃないっすか?だから』
『それって喧嘩、売ってるのか?冬哉くん?』
優妃を侮辱してるような妙な言い方に腹が立つ。
優妃がすごい美人であろうとなかろうと関係ない。そこになんの興味もない。彼女でなければ俺にはなんの価値もないのだから。
『ま、まさか!ただ、純粋な疑問す』
俺の怒気を感じ取ったのか彼は慌ててそう言った。
だけど、それならそれで俺は腹が立つ。
『…わからなくていいよ』
教えるつもりはない。
むしろ、分かってもらえなくていい。
彼女の良いところを知るのは俺一人で充分だ。
そんなこと頼まれて、教えるわけがない。
俺がそう言うと、あいつはそれ以上何も言わずに部屋を出ていったのだった…――――。
―――――――――
(ああ…、思い出していたらまた腹が立ってきた)
「あ、朝斗さん…?」
そんなに表情には出してないつもりだったのに、優妃がかなり申し訳なさそうに言った。
「わ、私…そーんなに本気で怒ってないですよ?だから…大丈夫なので、本当に」
必死にそうフォローするのが可笑しくて、つい笑ってしまう。そんな優妃に心を浄化させられる。
「うん。分かってるよ…」
優妃の頭をポンと優しく撫で、俺がそう答えると優妃はホッとしたように息を吐く。
―――もしも偶然を“装った”のなら許さない。
次に、俺の優妃に気安く話し掛けたら許さない。
「ごめんな、優妃。あとで言っておくから」
―――あいつが優妃の魅力に気がつく前に。
(危険な芽は、摘んでおかないとな…。一護のときのように――――…)




