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恋してるだけ   作者: 夢呂
【第三十章】大晦日の過ごし方
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【朝斗視点】200

「・・・そう、なんだ?」

ホッとしたような、違って残念なような。

よく分からない気持ちが自分を襲う。


「このあと、どこに行くの?」

そう訊ねたが、別に深い意味はない。

大荷物な理由を、何となく知りたかった。


「えっ、」

―――つもりだったけど、気が変わった。

なんだ、今の反応は。

思いきり動揺してるじゃないか。


「…言えないところ?」

あくまで優しく、優妃にそう訊ねた。


「ええっと…」

優妃が、オロオロしながら言葉につまる。暫く沈黙が続いてから、うつ向いたまま優妃が口を開いた。


「ごめんなさい…」

優妃に謝られるとドキリとする。こういう時の優妃の発言は、大抵が爆弾だ。


「嘘、つきました…。ごめんなさい…」

消え入りそうな声で、優妃が言った。


ああ、泣きそうだ。

いや、この顔は…泣くな…。


「―――嘘?」

もう怒ってないから、そんなに狼狽えないで?と、そう言うつもりで優妃の顔を覗き込む。


「どこにも行く予定なんかないんです、私・・・本当は今日…こ、ここに泊めてもらうつもりで…」


読み通り、―――優妃はボロボロと涙を流した。


だが、それより今度は、俺が動揺してしまった。

(ちょ、待て…いま、)


「で、でもやっぱり、朝斗さんは、家族の皆さんと過ごした方が()・・・―――――」

堪えられなくて、おれは隣にいた優妃を抱き締めた。


「――――…どうしたの?」

「え?」

腕の中で、優妃が訳が分からないというような声で聞き返す。


「優妃が、そんなこと言うなんて…―――(あいつ)になに吹き込まれたの?」

「え?」


いや、だって・・・そうだろ?

“ここに泊めてもらうつもり”って、どういう意味だか分かってるのか?

いや、優妃のことだ、分かってないはずだ。

これで俺がうっかり手を出したらまた…逃げられるんだきっと。


「朝斗さん?」

不思議そうに、腕の中から優妃が上目遣いに俺を見つめている。潤んだ瞳で。

(なんだそれ、可愛すぎるだろ…っ)


冷静さを失わないように視線をそらして、冷静さを失わないように俺は少しだけ優妃から身体を離して言った。

「ああそうだ。優妃、外泊とかはお母さんが心配…―――「あ、お母さんなら、寝る前と翌朝連絡するなら良いって…」

「!!?」


マジか!!

なんでだ?罠なのか?

鴨がネギのみならず鍋セットまで背負ってくるなんて、聞いたことがない。

罠以外にあり得ないよな?


ちょっと落ち着け。

紫は買い出しに出掛けただけだ。

帰ってくるはずだ。

決してこれから年明けまでずっと二人きりという訳ではないのだから。

いつも通りにしてれば、大丈夫なはずだ。

いつも通りに…―――。


俺は顔を右手で覆いながら、心の中でそう唱えていた。

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