【紫視点】198
『邪魔者は消えるよ』
言い聞かせるような台詞に、自嘲してしまう。
女装までして、女の姿で朝斗の傍に居ても。
母親の代わりになることも出来ず。
彼女になることも、出来ず。
結局、朝斗の傷は癒せなかった。
―――“わたし”でも、“俺”でも。
朝斗の心を動かせたのは、今年出会ったばかりの、朝斗より年下の女の子だった。
(これで…良かったんだ…)
何も知らない朝斗は、自分を責めて生きてきた。
自分が生まれたせいで母親が死んだと―――…。
俺は真実を知っていたくせに、言い出せなかった。
朝斗の母を殺したのは、俺なのだと。
あの日、まひる叔母さんが…事故に巻き込まれたのは…。
『まひるおばちゃん、アイス食べたい』
『オッケー!紫くんのために、おばちゃんアイス買ってきてあげる』
―――あの日の、自分の一言のせいだったのだから。
叔母の分も傍にいて、独りにしたくなかった。
そんな自分の罪滅ぼしな愛は、いつから…本気の恋に変わってしまったのか。
(―――もともと、不毛すぎたよな…)
蹴られた所はまだ痛む。
だけど、こんな痛みは、朝斗の心の痛みを考えたらちっとも痛くない。
「紫?」
アパートの合鍵を使って彼女の部屋に入るとすぐにそんな声がした。
「…美由起、ただいま」
明るく出迎えてくれた幼馴染みに、俺は微笑んで見せる。
「…終わったの?本命との恋とやらは」
「うん。今、終わらせてきた」
朝斗が幸せならそれでいい。
彼女が傍にいれば、あいつは幸せそうに笑うんだ。




