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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十九章【カウントダウン】
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(ついに大晦日(この日)に、なってしまった…。)


『時間変更!朝斗、夕方から実家に帰る気らしいから昼から来てくれる?』


昨晩紫さんから送られて来たlineを見ながら、電車に揺られ、私は朝斗さんのアパートに向かっていた。


―――本当に、良かったのかな?

せっかくお父さんと距離も縮まったんだし、私なんかより家族と過ごした方が良い気がしてきた…。


ここまで来て私は、少し不安になっていた。

サプライズが、こんなにハラハラドキドキするなんて思わなかった。


震える指で朝斗さんの(アパート)の呼鈴を押し、立っていると、暫くしてガチャリとドアが開いた。


「―――優・・妃?」

「こ、こんにちは…!」

私はすぐにガバッと頭を下げる。

部屋着の朝斗さんだ!

いつものきっちりした服装ではなく、無地のスウェットというラフな格好。

それなのに、どうしてこんなに様になるの?

それに、普段とのギャップが…!!

(ああ―――…とにかく今日も素敵です…っ!)


そんなことを思って、照れながら頭を上げると、朝斗さんはドアノブを手にしたまま、目を見開いて固まっていた。


「ど、うした…?」

「いらっしゃーい、入って入って」

唖然としている朝斗さんの後ろから、紫さんが顔を出して言った。朝斗さんの驚きっぷりに、紫さんは満足そうに笑っている。


「は?」

紫さんが私が来てもなにも驚かなかった反応を見て何か察したのか、朝斗さんは振り返って不機嫌そうな声を出した。


(あ、あれ?)

サプライズは大成功!だと思ったのに…。

なんか、雲行きが…怪しい!?


「あの実は…。今日、カウントダウンパーティーするからって…紫さんに誘っていただいて」

「・・・・紫に?」

正直に話したのに、なぜか朝斗さんの顔が険しくなる。

(あ、あれ?)


「“朝斗さんにはサプライズで”って言われてたので…昨日は黙っててごめんなさい!」


でも、きちんと話せば分かってくれると思って、私は素直に話した。


「優妃ちゃん?どした?寒いし早く上がったら?」

玄関の前で立ったままの私に、紫さんがそう声をかけてくれた。

(あ!紫さん今日は女装してないんだ!?なんか…こうして見ると本当に格好いいなぁ…紫さんも。)

紫さんも、朝斗さんと同じ茶色のサラサラヘアだ。地毛なのかなぁ、二人とも。


とりあえず中に、と朝斗さんも促してくれて、私は部屋に背を向けて履いていたブーツを脱ごうとしていた時だった。


「紫、どういうことだ?」

「どういうことも何も、サプライズにしたら朝斗の驚く顔が見れるかなぁって思っ」

ドカッ

(えっ?今、凄い音が…)

驚いて振り返ると、紫さんが鳩尾を抑えていた。


「ゆ、紫さんっ!?大丈夫ですか?」

紫さんの前には朝斗さんが立っている。どうやら朝斗さんが紫さんに蹴りを入れたらしい。

私は慌てて紫さんの元へ駆け寄った。そして目の前に立ったままの朝斗さんに言った。


「朝斗さん、酷いです。謝ってください、こんな「酷い?―――優妃にコソコソ連絡してたのに?」

「それは…っ」

「俺が昨日、どんな気持ちになったか分かってて、紫を庇うの?」

(ちが)っ…。私そんなつもりじゃ…」

(どうしよう、なんだかまた…嫌な方向に…)


「俺なら大丈夫だから。―――そんなことより優妃ちゃん。お昼は食べてきた?」

朝斗さんの剣幕に気圧されていた私と朝斗さんの間に、紫さんが笑顔で割って入ってきた。


「あ、はい・・・」

「そっか。俺はまだだから買い出ししてくるな」


そう言ってコートを羽織ながら、紫さんが私の耳元で囁いた。

「鍋、作っておいたから夜に温めて食べてね。」

(…え?)

「邪魔者は消えるよ、じゃ良いお年を!」

その囁きはほんの一瞬で。

朝斗さんが気が付かないくらい、一瞬のやり取りで。


(ちょ、ちょっと待ってください!?)


今の言い方って。

なんだか今日はもう、戻らないみたいな…!?


「紫さんっ!?」

私が振り返って声をかけた時には、紫さんはすでに玄関を出た後で。

私の呼び掛けの返事代わりに、バタンと扉の閉じる音が部屋に響いた。


(ちょっ、―――…ええええーっ!!)

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