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「ただいまー」
玄関で靴を揃えながらいつものように自然と声をかける。
「お帰り」
声がしたリビングへと向かえば、母がニヤニヤしながら私の手に提げていたバックを見ていた。
私は即座に紙袋を後ろに隠す。
「お母さんっ!翠ちゃんに、変なこと頼まないでよ!もうっ」
(見られた、見られた、見られた…!!)
いや、中身は見られてない。でも、洗濯をしてくれてるのは母なのだからいずれ見られる。というか、黒幕はこの母なのだ、今さら隠しても仕方ない。
(って、分かってるのに恥ずかしいっ!)
「あら“変なこと”じゃないでしょ、“大切なこと”じゃない。いつまでもそんなお子ちゃまパンツじゃ、早馬くんに呆れられちゃうわよ?」
(お子ちゃまパンツ!?)
そう、洗濯をしてくれてるのは母なのだ。
だから普段の下着を把握していてもおかしくないわけで…。
(ぐ、ぐうの音も出ない…)
「お金、足りなかったかしら?」
黙りこんだ私をバカにするでもなく、母は微笑んで言った。
「うん。あ、でも…翠ちゃんがプレゼントだって」
「ふふ、本当に良い友達持ったわねぇ。なんていうか、男前よね、翠ちゃん」
―――――母は今、上機嫌だ。
だから私は、大晦日の話をすることにした。
「ところであの…、お母さん?」
「なぁに?」
「大晦日なんだけど、年越しパーティーしようって朝斗さんの従兄の紫さんに誘われてて。…あの、私行ってきてもいい?」
緊張からか早口になってしまった。
母は黙ったままで、私はごくりと唾を飲み込む。
「―――泊まりに行くの?」
暫くして、母が言った。思ったより、穏やかな声だった。
「うん…」
「その従兄の方にご挨拶したいから、あとで連絡先教えて?」
「あ、うん。―――え?」
(ってことは、・・・良いの?)
「付き合ってるし、早馬くんには借りがあるしね。まぁパパには内緒にしといてあげるわ」
「お母さん…っ」
ぱあぁぁっと、部屋が急に明るくなった気がした。
(こんなあっさりオッケーが出るなんて!)
「但し!夜寝る前と、翌朝は連絡してくること!心配するからね」
「はい!」
母の言いつけに、私は浮かれながらも行儀よく返事をしたのだった。




