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翌日、翠ちゃんと街中にあるオシャレなカフェでランチをしながら私は昨日翠ちゃんと別れてから起きた、一連の出来事を報告した。
「そっか。あの人やっぱり…。」
「え?」
翠ちゃんの呟く声が聞き取れずに見つめると、翠ちゃんは目を細めて微笑んだ。
「・・・良かったじゃん」
「うん。ありがとう…」
なんだか照れ臭いなと思いながら、お冷やを口にして誤魔化す。
「で?それなのにその顔はどういうこと?」
翠ちゃんは頬杖をついたまま、じっとこちらを見つめている。
「え?」
「浮かない顔してるじゃん」
翠ちゃんって、なんでいつも鋭いんだろう。
それとも今の私の顔は、誰が見ても“浮かない顔”をしているのだろうか?
「あ・・・えっとですね…」
視線を落として、私は白状することにした。
「じ、実はね?…大晦日に、カウントダウンパーティーをするみたいで」
「へぇ、楽しそうじゃん」
翠ちゃんの声のトーンはいたって冷静なままだ。
私はどきまぎしながら続けた。
「でも、と…泊まりなんだって!」
「ふーん」
あれ?今、私、大胆発言したはずなんだけどな…。
翠ちゃんの声のトーン全く変わってない。
「翠ちゃん!…聞いてた?」
「え?泊まりでカウントダウンパーティーでしょ?楽しそうじゃん」
聞いてるよ、という顔をしながら翠ちゃんが言った。
「――――そう、だけど…泊まりだよ?」
「だから何よ。文化祭の時も泊まったんでしょ?」
「そ、そうだけどっ」
あの時は、そういう事にならなかったから。
だけど、今回は…。
って、あれ?私は一体何を期待してるの?
期待?うわぁ!違う違う!そうじゃなくて…っ!
え?あれっ?
(私・・・期待してるの?)
「あー、そういうことね」
悶々と考え込んでいたところに、突然翠ちゃんが、納得したような声を出す。
そういうこと?って、どういうこと?
思わずあれこれ考えていた思考をストップして、翠ちゃんの言葉の意味を考えてみる。
だけど答は分からなくて、首をかしげて翠ちゃんを見つめた。
「意識しすぎなんじゃないの?別にいいじゃん、付き合ってるんだし。」
そっ、そっか。やっぱり私が意識しすぎなのかな?
そうだよね、朝斗さんだって以前に、嫌がることはしないって言ってくれたもんね。
あぁ、お母さんが変なこと言うからだよ絶対!
「しかもおばさん公認になったわけだし早馬先輩だって考えてくれるよその辺は」
考えてくれる?
いや、でも…そもそも――――。
「というかね、これサプライズの予定で…。」
考えながら私は、翠ちゃんに声をひそめてそう補足した。
そもそも私は、大晦日にお邪魔しても良いんだろうか?朝斗さんに無許可なのに。
「は?サプライズ?ってことは早馬先輩は、大晦日に優妃とカウントダウンパーティーするって知らないの?」
翠ちゃんが、今日一番目を輝かせた。
・・・なんでだろう?
「…うん、そうみたい。紫さんからの提案だから」
「へぇ!それは本当に楽しそうね」
「翠ちゃん?な、なんか悪い顔してない?」
私がそう言うと、翠ちゃんがニッコリ笑って言った。
「やだなぁ、そんな事ないって」




