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「えっ、大晦日…ですか?」
その日の夜、寝る前のことだ。
私のスマホに着信があったのは・・・。
(―――紫さんからの電話って、なんだか毎回…心臓に悪いような・・・?)
そう思いながらも電話に出た私は、
30秒後の今、まさに、(やっぱりそうだった・・っ!)と、思っているところだった。
『うん。せっかく戻ったんだしさぁ、朝斗と過ごしてやってよ』
上機嫌の紫さんが、さらりととんでもないことを言っている。
「え、それは…えと…?」
私はつい、口ごもってしまう。だって、“大晦日に”朝斗さんと“過ごす”っていうのは…それってつまり…―――。
私がその先を口にしなくても、紫さんには伝わったらしい。
『うん。もちろん泊まりで。だって、カウントダウンパーティーだよ?』
「や、さすがに泊まりは…」
“無理ではないでしょうか?”と言いかけた私の声を、紫さんはわざとらしく遮って言った。
『優妃ちゃん・・・。朝斗、優妃ちゃんと別れてからずっと寂しい思いしてたわけだしさぁ、ここはひとつ、彼女として一緒に過ごしてあげるとかして貰わないと』
「そ、それは…(そうかもしれないですけど・・・)。でも…えっと…。」
泊まりはさすがに…どうなんでしょうか?
というか今日、お母さんが“避妊”とか変なこと言うから…“泊まり”って言葉から変に意識しちゃうっ!
(あぁぁぁー―――…っ!!)
そんな自分がたまらなく恥ずかしい!
『あ、ご両親が心配するかな?もしそうなら、わたしからも頼むから、電話代わってくれる?』
私が一人で悶えていると、紫さんは何かを察したようにそう言った。
(えっ!?)
「ちょ、ちょっと考えさせてもらっていいですか?」
その前にいろいろと頭を整理しなくてはと、私はとりあえず“保留”を申し出ることにした。
『もちろん!じゃあ良い返事待ってるねー』
「あ、…はい。」
電話はそこで切れて、私はスマホを握ったまま固まってしまった。
ど・・・どうしよう。
朝斗さんのおうちで、大晦日?
電話が切れた後も、ずっとドキドキがおさまらない。それどころか、お泊まりを想像してしまって、ドキドキが増してしまう。
その時、ピロンとlineの着信音がして、ビクッとしながら手にしていたスマホに目を落とすと、――――紫さんからのメッセだった。
『あ、言い忘れてたけどそれ、朝斗にはサプライズの予定だから、絶対言わないでね』
“ナ・イ・ショだよ”と、なんともかわいらしいクマのスタンプ付きだ。
“それ”って、カウントダウンパーティーのこと?
・・・それとも、お泊まりが?
(どちらにしても、心臓に悪いですよ紫さんっ!)
私はその日、そんな新たな問題に頭を悩ませて、なかなか寝付けなかった。




