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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十七章【二人で挑む】
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「…優妃には情けないところばかり見られてるよな」


暫くしたら落ち着いたのか、母の出したお茶に初めて手を伸ばして、少し口に含ませた後に、朝斗さんがポツリと言った。


「え、そんなことないですよ?」

手に持っていたお茶を飲んでいた私は、慌てて顔を上げて答える。


「というか。私は、そんな朝斗さんが見れるとすごく嬉しいです!」

「?」


朝斗さんがえっ?という顔をして私を見つめる。

(…なんでこんなにいちいち素敵なんだろうなぁ…朝斗さんて。)

見つめられるだけで、心臓がドキドキ加速する。なんだろう、何かの魔法にかけられたんだろうか?


私は恥ずかしくなって、視線をお茶に落として早口で答える。

「だって…。知らない朝斗さんの顔を見れるなんて、私だけが朝斗さんを独占してるって実感できて…。これって最高の贅沢じゃないです・・・か」


(うわ…また、油断した…)

最後の語尾が遅れたのは、うっかり顔を上げたら朝斗さんが、ふわりと笑ったから。


「・・・そっか」


反則です、それ!!!

不意打ちで、特別甘い(そんな)笑顔を向けてくるなんて。私をキュン死にさせるつもりなんですかっ?!

私はそんな文句のひとつでも言いたかった。

(なんて、―――…言えるわけないけど。)



「俺さ。保健室で優妃が…抱き締めてくれたとき…すごく嬉しかった」


「えっ…」

驚いて顔を上げると、照れたような朝斗さんの顔が目の前にあった。


(どうして、突然あの時の話を…?)


私が今どれだけ心臓がドキドキ煩いとか、心拍数がとんでもないことになってるとか、朝斗さんは分かってない!分かってたら、相当な意地悪ですよ!?


「朝斗さん・・・。でもあの時“好きにならなきゃ良かった”って…」

目をそらしながら、そんなかわいくない事を言ってしまった。

ドキドキさせられっぱなしなのがなんだか悔しくて、ささやかな反抗をしたかったのと、…照れ隠しがその理由。


あれ、かなり傷付いたんですからね!と拗ねたふりをして言うと、朝斗さんが少し困った顔をした。


「あぁ…ごめん。…言ったかも」

口許を隠して、朝斗さんが呟いた。だけど、声色は優しくて、嬉しそう。


「朝斗さん、笑ってません?」

そう言って朝斗さんを見上げる私の頬も、緩んでいる。


今となっては、気にしてない。

というか、今が幸せ過ぎて、すっかり忘れてたぐらいだ。


「だってずっと苦しかったんだ…。別れてからもずっとこの気持ちが消えないから…」

「朝斗さん…」


朝斗さんが愛おしいものを見るように私を見つめて、そっと手を伸ばしてくれる。


(あぁ、好きだなぁ。本当に、夢みたい…)


愛おしい人に、同じように愛おしいと思ってもらえている幸せ。

私の頬にそっと振れる朝斗さんの手に誘われるように、私は朝斗さんにゆっくりと顔を寄せていった。


(夢ならどうか、醒めませんように…………)




「ただいまぁ」

玄関から母の声がして、私と朝斗さんは弾かれるように身体を離す。


(夢、ではなかったけど・・・・)


「あら。…あらあら?お邪魔だったかしらね?」

動揺のあまり不自然な立ち位置になっていた私に、リビングに顔を覗かせた母が笑う。


(夢ではなかったけど、現実に引き戻された!もぉ…お母さんのせいで…っ!)


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