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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十七章【二人で挑む】
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「ちょっ、―――あぁ、どうしよう!」

突然お母さんが前屈みになって、苦しみだした。


「お、お母さんっ?」

「優妃、救急車…っ」


私と朝斗さんは、慌てて立ち上がる。でも、次の瞬間、母は、顔を覆って言ったのだ。


「早馬くんがイケメン過ぎてっ!ときめいちゃうわっ!」


「「―――・・・え?」」

私と朝斗さんは、顔を見合わせてしまう。


(なんで、母がときめくのよ…っ)

いや、気持ちは分かるけど。私もちゃっかりときめいていたわけだし。

だけど、お母さんっ!?恥ずかしすぎるって。


「あー、やばい。やばいわ…」

暫くそう呟いていたが、深呼吸したら容態が落ち着いてきたのか、咳払いをして取り繕うように母親面をした母が言った。


「わざわざ、交際宣言をしに来てくれたのね。私があんなこと言ってしまったから。――――…もう高校生なんだもの、恋愛くらいするわよね。私も自分の高校時代(こと)を棚に挙げて、優妃にも貴方にも厳しく当たりすぎてた…ごめんなさい」


「お母さん…」

お母さんがそんなふうに言ってくれるなんて、思わなかった!

私はホッとしながら、朝斗さんの方をチラリと見る。朝斗さんも、ホッとしたように微笑んで私を見つめていた。


「優妃のこと、よろしくお願いします」

そう言って朝斗さんに頭を下げた母に、朝斗さんも頭を下げたので私もつられて頭を下げる。


「って、これってなんだか、嫁に貰われるみたいね」

顔を上げた母がそう言って笑った。



「あ、そのご挨拶は改めて、また数年後に伺います」

「「・・・・」」

朝斗さんがさらりと言った言葉に、私と母は目を丸くしてしまう。


「え?朝斗さんっっ?」

驚いて朝斗さんの方を向くと、朝斗さんが悪戯な微笑みを浮かべて耳元で言った。


「本気」


(ほ、本気…って!!?)

朝斗さんの魅力的な声が、私を瞬殺する。

慌てて耳を押さえたけれど、耳から全身が熱くなっていくのが分かった。


「あらあら、若いって良いわねぇ」

そんな私の様子を、愉しそうに母が笑って見ていた。



「あ、そうそう!優妃。もう、嘘はつかないこと。これだけは、守って。いいわね?」

「あ。…はい」


「心配かけるようなことはしないで。あと、信用を無くすようなことも、ね」

「はい。ごめんなさい」

「文化祭の時は、本当にすみませんでした」


朝斗さんも一緒に謝ってくれた。

朝斗さんが頭を下げたので、私もまた、つられて頭を下げる。

母は、安心したようにふぅと一息ついてから言った。



「じゃあこの話はもうやめましょ?早馬くん、今日はこのあと予定でもある?無かったら、一緒に夕御飯でもどぉかしら?」


「えっ!?」

(ちょっと、急すぎるって!迷惑だって!)

母の突然の提案に、私は驚いて声が出てしまった。


「特に予定は…。ご迷惑で無かったら、ご一緒させてください」


「えぇっ!?」

(朝斗さんっっ??)

さっきより大きな声が出てしまった。


「良かった!よし、じゃあ今日は特別頑張るわ!早速買い出ししてくるわね」

「お気遣いなく…」

母の張り切る声に押されて、朝斗さんの声が遠慮がちにリビングに響いた。

多分、せっかちな母の耳には届かなかったと思うけど。


「うちのお母さん、常に一方的で…!すみません、本当に…っ」

バタンと玄関のドアが閉まった音がして、私は我に返るとすぐに朝斗さんに謝った。


「――――あの…?朝斗さん?」

朝斗さんがソファーに礼儀正しく座ったまま動かないので、私はそっと顔を覗き込む。


「あ、ごめん。――――緊張し過ぎて、今になって…震えが」


そう言う朝斗さんの手は、確かに微かに震えていて。

私はそんなレアな姿の朝斗さんが愛おしくて、ふふっと笑みがこぼれてしまった。


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