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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十七章【二人で挑む】
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「ただいま・・・」


生まれてから今まで、こんなに緊張しながら家の玄関を開けたことは無かった。


お母さんを怒鳴り付けて、家を飛び出して…。

帰ってきたら、彼氏…を連れてくる娘。


(ってなんだか私、すごく不良っぽい気がする。)



「お帰り。ちょうど今日は夕御飯要るのか連絡しようと…―――あ・・・あなた、」


バタバタと足音をさせて、拍子抜けするくらいいつも通りに話しながらキッチンから顔を出した母は、朝斗さんの姿を目が捉えると一瞬動きが止まった。


「ご無沙汰しています。早馬朝斗です」

朝斗さんが真顔で頭を下げた。いつもの王子様スマイルは無くて、私は少し心配になってしまった。


(朝斗さん…緊張して、る?)



「――――どうぞ上がってください?優妃、スリッパお出しして」

母は、それだけ言うとキッチンへと戻っていった。


「あ、うん」

(スリッパ…?一琉には一度も出したこと無かったよね?スリッパ…。)


朝斗さんは、“お客様”ということなのか?

――――母の意図が分からない。



リビングのソファに、朝斗さんと私が座った。

そして、今まで一度も見たこともないような、高そうな茶器で緑茶を淹れてきた母が、朝斗さんの前にそれを出してから、そのコの字型の角に座った。


「…あの、」

朝斗さんが話をしよう顔を上げた時だった。


「私、早馬くんに謝らなくてはいけないわよね」


「「え…?」」

母がそんなことを言い出したので、私と朝斗さんから、同時に驚きの声が漏れた。


「文化祭の時は、大人(おとな)気なく一方的に貴方を責めてしまって…ごめんなさいね」


(お母さん…)

まさかそんなあっさり謝ってくれると思わなくて、

私は母を見直した。


「優妃は昔から世間知らずな子で…一琉くんがいないと何も出来ない子で。」


(え?ちょ、ちょっと…)

今、一琉の話はしなくていいんだけど。

どれだけお母さんは一琉のことがお気に入りなのよ…。


私は焦りながら隣に座っている朝斗さんの顔をチラリと見た。朝斗さんは真剣に、母の言葉を聞いていた。


(朝斗さん…)


「だからつい、私が一琉くんを頼りすぎて。今までのことを思うと、一琉くんには悪いことをしてしまったわ・・・」


母の言葉から、何となく…―――

一琉のことはもう解放すると言っているように聴こえた。


「それに早馬くんが、優妃には勿体無いくらいの人だから…つい、疑ってしまっ…「それは、違います」


母の言葉を、朝斗さんが遮った。


「僕には勿体無いくらい、優妃さんは素敵な人です。彼女が隣にいてくれるだけで、癒されます、元気をもらえます。」


朝斗さん・・・・それって褒め殺しですか?

それにしても、ちょっとそれは大袈裟ですよ!!

というか、なんか…―――これってなんだか…。


すごく恥ずかしくて、顔が熱い。

いま絶対、頭から湯気が出てる。


「大切なんです、僕にとって優妃さんは。―――なので、」


勝手にときめいて悶えている私の隣で、朝斗さんは冷静な声ではっきりと言った。


「優妃さんとお付き合いを続けさせてください」

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