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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十七章【二人で挑む】
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(どうしよう・・・)


家の近くまで来たら、なんだか心拍数が上がってきた。

母と言い合いをして家を出てから、まだ自分からは何の連絡もしていなかったからだ。


(あっ!)


そうだよ!

朝斗さんが突然現れて、夢みたいな展開になって、浮かれすぎて、すっかり忘れていたけどっ!


私にはまず、やるべきことがあったんだ!!

朝斗さんに告白する前に、やるべきことが!


「…優妃、どうかした?」

私の心の声が聴こえてしまったのか、朝斗さんが心配そうに顔を覗き込んでくれる。

それだけでキュウゥ…っと胸が締め付けられてしまう。

あぁ、好きだなぁという気持ちが遠慮なく溢れてしまうから困る。


(って、そうじゃなくて!)


「朝斗さんっ。私・・・謝らなきゃいけないことがあります」

私が意を決してそう告げると、朝斗さんは少し目を見開いた。


「…何?怖いな・・・」


「あの…、うちの母のことです」

「優妃のお母さん?」


「文化祭の日に、お母さんが酷いこと言って…“別れろ”って言ったんですよね?―――ごめんなさいっ!…私、知らなくて」

私は立ち止まって頭を下げる。でも、繋がれた手は、離されることはなかった。


「あぁ、そのことか。」

朝斗さんが小さく笑って言った。


「はい…。朝斗さん、そのせいで別れようって言ったのかなって…思って」

「うん。・・・でも、良いんだ」

「え?」


“良いって、何が…”と聞こうとした私は、目の前からやってきた彼の存在(幼馴染み)に気が付いて、口を閉ざす。


(・・・・一琉)


「優妃っ」

一琉は私の姿をとらえると、駆け寄ってきた。


「夜なのに、外も暗いのに、家飛び出すとか、バカじゃないの!?」

一琉が言っているのは昨日の夜のことだ。私が母と言い合いをして、そのまま家を飛び出したから。


(心配、してくれたんだ・・・)

「――――ごめん」


一琉にぽつりと謝り、顔を上げると一琉は朝斗さんを睨み付けていた。


「それで?――――なんだ、やっぱり・・・戻ったんだ?」

「・・・・一琉、あのね」

私が説明しようとすると、一琉はそのまま横を通りすぎた。


「おばさん、心配してたよ?」


私を見ずにそれだけ言うと、一琉はコートに両手を突っ込んだまま、家とは反対方向に歩いていった。


「―――…朝斗さん、ここで大丈夫です。」

そんな一琉の背中を振り返って見つめながら、私は朝斗さんに言った。


もし、今ここで朝斗さんとお母さんが会ってしまったら。

お母さんが、朝斗さんに酷いことを言うかもしれない、とか。


(お母さんときちんと話をしていないせいで、いまは不安しかないから。)


離そうとした私の手に、朝斗さんがぎゅっと力を込めた。


「朝斗さん?」


驚いて顔を見上げた私に、朝斗さんが真剣な目をして言った。


「優妃。少しだけ、寄らせてもらってもいいかな?」

「えっ?」


「優妃のお母さんと、話がしたいんだ」


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