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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十六章【雪解けの気持ち】
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「家まで送るから――――歩きながらもう少し、話を聞いてもらえる?」


「………」

私はうつ向いたまま、コクンと小さく頷いた。泣き腫らした顔はとても上げられそうにない。


「―――俺の…家族の話。」

(えっ、)

朝斗さんの言葉に、思わず顔を上げてしまった。


(どうしよう、言わなきゃ…)


「俺にはね、母親が居なくて、」

「すみません朝斗さん!私…、知ってました。前に…紫さんから聞いて…」


話を遮るのは躊躇われたけれど、でも知らないふりも出来そうにないから私は自白した。


「そう」

朝斗さんはたいして驚かずに、私を見て微笑んだ。


「母親が、俺のせいで死んだことも?」

「・・・え?」

微笑んで言う朝斗さんに、私は言葉を…失なった。

(朝斗さんの、せい?そんな…。なんで―――…?)


「俺の母親は…俺を生むために力を使い果たして死んだんだ。・・・まぁ、(のち)親戚(ヒト)から聞いた話なんだけど」

朝斗さんが、まるで自嘲しているように…―――笑みを崩さずに言う。


「だから、俺はうまれた時から…誰にも必要とされていなくてさ。父親も仕事仕事で帰ってこなかったし、シッターの人が代わる代わる世話をしてくれるような環境で育ったんだ」


(そんな、悲しい話を…―――どんな風に過ごしてきたら…そんなに淡々と話せるようになるんですか…?)


「だから愛情なんて、貰ったことはなかったし、要らないと思ってた」


(そんな悲しいことを、そんな顔して(微笑んで)言わないで…)


「ずっと・・・・諦めてたんだ、何もかも」

私はたまらなくなって、朝斗さんの手をぎゅっと握った。私はここにいますと、伝えたかった。

ここに朝斗さんの存在(こと)を想ってる人間がいることを知っていて欲しかった。


朝斗さんはそんな私の手を優しく握り返してくれて。

私の方を優しい眼差しで見つめてくれた。

まるで、“大丈夫だよ”というように。


(うわぁ・・・何してるの、私…―――)

励ますつもりが、不覚にも自分の胸がときめいてしまった。


朝斗さんは、真っ赤になってうつ向いていた私を見てクスッと笑ってから続けた。


「でも…。優妃と付き合い始めてから、―――日に日に君を好きになっていって、好きになり過ぎて…。

同時に自分でも嫌になるくらい…独占欲が止まらなくなって」


(そんなに…私のことを…―――?)

私は自分に自信がなくて、

いつも自分の気持ち(こと)ばかりで…。

何度貴方を傷付けたか…――――それなのに。


「優妃のことを、これ以上縛り付けたくなかった。だから…別れた方がいいと思ったんだ」


「そんな、」


「それに、弱い自分とか、こんな歪んだ自分とか知られたくなかった。知られて嫌われたくなかった。俺は逃げることばかり考えて、大事なことを見落としていたことに…気付いてなかったんだ」


(大事なこと…?)


「昨日優妃にキスされて、目が醒めたよ」

ニコッと笑う朝斗さんの目が、意地悪な光を宿してる。


(あぁっ、そうだった!!)

私はなんて、恥ずかしいことを無理やりっ!!

しかも、無抵抗な病人にっ!!


「あ、あれ…はっ、えと…出来心で…」

(って、正直に言ってどうするの、バカっ!)


「ふはっ!」


朝斗さんが笑った。

本当(● ●)に楽しそうに。

笑った・・・私に。私だけに。

それは、ずっとずっと前に見て以来の笑顔。


(朝斗さんの貴重な笑顔・・・・)


嬉しくて、感激のあまり、

私はつられて笑いながら、涙が出てきた。


「優妃を見習うよ」

私の目元に、そっと朝斗さんが指で触れた。


「へ?…私、ですか?」

微笑んで私を見つめる朝斗さんに、私はドキドキしながら見つめ返す。


「うん。俺も、優妃みたいに…―――、逃げずに向き合うべきだって…―――そう、気付いたんだ。」


(朝斗さん・・・)

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