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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十六章【雪解けの気持ち】
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朝斗さんと向き合う前に、まずは母と。

そう思っていたし、そう口にしたばかりだったから。


だから、今。

あまりに思いがけない展開に・・・驚きのあまり硬直したまま動けずにいる私は―――すごく当然だと思うんです。



「次やったら殺す」

怒りを露にしたその人の腕が、私の肩を引き寄せる。


(――――・・・なんで?)

かくんと身体がぐらつきながら、私の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。


「ふーん。なんだかすっかり元気になってるじゃん!もしかして、全部聴いてたの?」

紫さんが、愉しそうに笑う。


私は…それをどこか他人事のように傍観していた。


(なん、えっ?―――…えっっ?)


まだ、事態が把握できていない。というか、パニックで頭が働かない。


「陰からこっそりなんて、悪趣味よねぇ」

「行こう、優妃(● ●)。」

(えっと、えっと・・・・・えっと…?)


いくら考えても状況が把握できないまま、私はその人に手を引かれて歩いていた。


「あ、の…」

(聴いてた?聞かれた?私…まだ心の…準備が。だって、私…)


ドキドキ鳴りやまない心音が、激しくて…激しすぎて口から出てきそうだ。


「あ…―――朝斗さん?」

半信半疑のまま、私は震える声でその人の名前を呼ぶ。

朝斗さんはこちらを振り返ると、申し訳なさそうにそっと私の手を離した。


「昨日はごめん・・・・」

「え?」

(―――やっ、ぱり…フラれる…?)


朝斗さんがまた謝罪の言葉を口にするから、私は身構えた。


「昨日はちょっと混乱してて…。――――というか、話、噛み合ってなかったことに気づかなくて」

「え?話、噛み合ってなかっ………た?」

馬鹿みたいに、同じ言葉を繰り返してしまう。

でも仕方ないんです。だって、意味が分からなかったから。


昨日、私との会話が、噛み合ってなかった?

えっと、どこから噛み合ってなかったんだろう・・・?


「俺、優妃が一昨日の夜、公園で一護と居るのを見たんだ」

「え?」

ドキンと心臓が跳ねた。


「風邪薬を買ってきてくれて助かったから・・・お礼を言いたくて。―――だけど二人が仲良さそうにしてるのを見たら…」

何を思い出したのか、朝斗さんが表情を曇らせて途中で言葉を切った。


「朝斗さん…?」

まさか、あの時、あの場に朝斗さんが居たなんて。

だってあの公園、うちの近所なんですよ?

電車に乗ってきてくれたの?私に…会いに?


それだけで胸がいっぱいになる。


「優妃は、その事を話そうとしているのかと思って。だから俺は“知ってる”と答えた。」

「へ?」


「正直聞きたくなかったんだ…、一護と何を楽しそうに話していたのかなんて」


「え、ちょっと待ってください!私が言いたかったのは“三浦さん”の話で・・・」


「そう。“それ”…。俺、優妃が…“彼女”―――三浦たまきさんのことを、言ってたことに気付いてなかったんだ」


“三浦さんのことを言っていたことに気付いてなかった?”


(今、朝斗さん・・・そう言ったの?)


「え?じゃあ…朝斗さんは・・・」


昨日、私と朝斗さんは何を話してたのか。

私は、“三浦さん”のことを話していた。

でも、朝斗さんは・・・・?


『良いんですか?許せるんですか?――…他の男の人といたんですよ?』

『何、嫉妬して欲しいの?』


(朝斗さんは・・・?)


『俺だけが特別じゃないのは…分かってる…―――でも…好きなんだ…』


「あ、れ…は一体誰のことを・・・」


酷く喉が渇いて、私の声は小さく掠れた。

ドクン、ドクンと心臓がうるさく音をたてている。


『ごめん。今までずっと隠して、自分の本当の気持ちに気付かないようにしてた。ずっと君には…―――君だけには…知られたくなくて。でも、俺は』


(まさか…――――。え…本当・・・に?)


頭の中では、自惚れた“答え”が用意されている。

信じられないけれど、でもどうしても期待してしまう私は…愚か者かもしれない。




『―――好きなんだ…』

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