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「一琉、もう…」
いい加減にして、と言いかけた私に一琉が言った。
「早馬朝斗先輩、」
「!!!――…っ」
(違う高校の一琉が…どうして先輩のことを知ってるの!?)
一琉の口から先輩の名前が出てきて、私は絶句してしまう。
「変な虫に好かれたよね、優妃。」
「………」
(変な虫?先輩はそんなんじゃない。それに…私なんかを選んでくれたんだもの…)
「ちゃんと、お別れしておいで?」
涙目の私に、一琉が耳元で囁く。悪魔の囁きのように。
「優妃?」
心がズタズタの私を救いだしてくれるような、そんな声がした。
分かっていたけれど私はすぐに振り返って確認する。
――――私の名前を呼んだのは、やはり早馬先輩だった。
(―――一琉に、会わせたくなかった…)
本当は見られたくなかった。こんな所を…。
「君、優妃に何した?」
私を庇うように、早馬先輩が一琉と私の間に割って入ってくれる。
「“優妃”?―――そっちこそ気安く呼ばないでよ、“彼氏気取り”が」
一琉が微笑みながら言う。でも完全に敵意剥き出しだ。
「―――誰?」
早馬先輩が私に顔を寄せて、低い声で問い掛ける。
「あ…えっと…」「早馬先輩」
私が一琉のことを説明する前に、一琉が話し出した。
「優妃から、何も聞いてないんだ?」
挑発するような口調で、一琉が言う。
(一琉…やめてよ…っ!!)
私は心の中で悲鳴をあげる。
「だからあんたはその程度の関係ってことだよ」
クスクスと笑いながら、一琉が言う。
(もうやだ…止めて…っ)
嫌われる。先輩に嫌われる。
一琉が私のこと、手放さない限り、私はずっとこのままなんだ…っ。
ずっと堪えていた涙が、頬を伝う。




