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恋してるだけ   作者: 夢呂
番外編【翠視点での物語】
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【翠視点】0~始まりと終わり~

ここからは、翠視点の物語です。

本編とは無関係なのでかなりざっくりした内容になっています。

物心ついたときから、私は冷めた子供だった。


それは多分、母親がいつまでも子供みたいな人で、私がしっかりしないと…と、責任感みたいなものを持っていたからだと思う。



「あぁ、昨日の子!こんにちは。」

「あ!昨日の、お兄ちゃん」

幼稚園に通っていた4才の私と、何かのきっかけで知り合った中学生の友達、カズくん。家が近所だったからか、私は会うたびに可愛がられた。


憧れなのか、なんなのか。

いつしか私はお兄ちゃん(カズくん)と会うのが楽しみになっていた。

あれが“恋”だったというのなら、初恋になるのだと思う。


だけど、

ずっとそのまま一緒に居られるはずもなく、私が小学生になり周りに同い年の友達が出来たことや、カズくんが高校生になり、お互いの環境が変わっていく中で、まったく接点がなかった私達は自然と会うことはなくなっていった。



それからさらに月日は経ち――――…


「逢沢さん、俺と付き合わない?」


中学生になって数日後、私は初めて告白というものをされた。

同じ中学の、初対面の先輩からだった。


当時の私は、男の人と付き合って、ヤることをヤれば大人の仲間入りになれるもんだと思っていた。

その単純的思考が、コドモであることにも気付かずに…―――。

そして私は、中学一年で男を知った。


――――…急いで大人になりたかった。

それは多分、頭の片隅にずっとカズくんの存在があったからだと思う。


「好き」がどんなものかもよくわからないまま、告白されたら付き合って、そして別れて。

そんなふうにして無駄に経験だけは増えていった。





そんな私が琳護くんに初めて出会ったのは、中学二年のある日、一護の家に友達数人と遊びに行った日のことだった。


「君、俺のもろタイプなんだけど!」

「………は?」


偶然家にいた一護の兄と目があった瞬間、私はそんな告白をされた。

それが―――琳護くんと初めて交わした言葉だった。




「ねぇ、琳護先輩って、最近翠のところよく来るよね」

同じクラスで仲の良かった友達に、突然そんな話をされたのはそれから数日後のことだった。


「え、そう?暇なんじゃない?」

私が素っ気なくそう返すと、友達が何やら穏やかでない表情で言った。


「でもこないだ“もろタイプ”とか、言われてたよね?」

「翠って、琳護先輩のこと好きなの?」


「は?まさか…。」

「じゃあ私、狙ってもいいよね!?」

友達にそう言われた時、私はそこで、初めて…琳護くんに惹かれていた自分に気づいてしまった。


だけどそれは、もう手遅れで…。


「うん…」

だから私は…―――頷くしかなかった。




「翠ちゃんが、好きだ。だから俺と付き合って?」

そんな複雑な気持ちを持ったまま、私は琳護くんに告白された。


「………」

男の子に好きだと言われたのは、それが初めてだった。

今までは、“付き合って”しか、言われたことが無かったから。


「翠ちゃん?」


答えられなかった。

だって、友達が…貴方を好きだと言っていたから。

私は…応援すると言ってしまったから。


だけど好きだったから。

私は…断れなかった。

誰にも言わないことを条件に、私達は付き合い始めた。



だけど、それが…どれだけ辛いことか…。

その時の私は分かっていなかった。


琳護くんは、学校でもかなりの人気者で…、常に友達に囲まれているような人だ。

そしてそれは、女友達も含まれる。

私は女の子に囲まれている彼を見るたびに、嫉妬で苦しくなった。

誰にも言わないでと条件を持ち掛けたのが自分だったために、私はそれも言えずに堪えた。


堪えて、堪えて。


悲しくても、辛くても。


誰にも言えなくて。


そして…堪えられなくなって――――別れを決意した。


「卒業おめでとう」

「あー翠と離れるなんて、寂しくなるなぁ…」


琳護くんの卒業式の後、琳護くんの部屋で抱き締められながら私は言った。


「別れましょう?」

「は?…なんの冗談?」

怒ったように、琳護くんが私の顔を見つめる。



「・・・本気です」

私は琳護くんを無表情で見つめ返し、応えた。


「もう…疲れた。だから別れて」


呆然と立ち尽くす琳護くんにそれだけ告げて、私は帰った。



頭では、分かってた。


私が素直じゃないからだって。


もっとうまく甘えることができたら…弱味を見せることができたら良かった。


不満をぶつけたって、良かった。


だけど、私はそれができない。


貴方が高校生になって、もし貴方から別れを告げられたらと思うと怖くて。

琳護くんを信じきれなかった自分の弱さが原因だって。


だから私は泣かなかった。

泣いたらダメだと、ずっと言い聞かせて堪えた。



高校生になったら、今度は自分から告白する。

それを目標に私は、翌年琳護くんのいる高校を受験したのだった。




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