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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十五章【逢沢家で恋話】
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「で?香枝は最近元気がなかったようだけど、何を悩んでるんだ?」


翠ちゃんから急に私に視線を向けて、高梨先生が訊ねた。

いつの間にか、翠ちゃんママが酔い潰れていてテーブルに突っ伏して寝ていた。


「―――え…」

まさか先生に気付かれていて、しかもそんなふうに心配してもらえるとは思わなくて、私は驚いた。

先生があまりにも暖かく、真剣な目をしていて…、だから私は少し戸惑いながらも正直に話すことにした。


「―――…好きな人に、彼女…がいるんです」


「へぇ!ま、知ってたけどな!二年の早馬だろ?」

「!!!?」

あっさりそう返され、しかもなんか軽い感じの口調。

私は驚きのあまり声も出ずに口をパクパクさせてしまった。


(なっ!なんで!?―――というか…先生、キャラが違いすぎます!)


「恥ずかしがらなくても大丈夫だぞ香枝、今更だ」

ニッコリ微笑んで、高梨先生が言った。

(高梨先生って、笑うんだ…)

学校ではこんな表情を見たことがなかったから、貴重で思わず見とれてしまった。

(学校でも、こんな風に笑ったりしたら、モテるんだろうな…。)


「それに言ったろ?今日は“担任の先生”じゃなくて、“近所のお兄ちゃん”だから」

「おじさんでしょ?」

すかさず横から翠ちゃんがボソリとツッコむ。


「ミーちゃん、ひどいな!」

「“ミーちゃん”言うな!」

(なんか、微笑ましい…)

二人の会話のテンポが、面白くて…笑ってしまう。

クスクス笑っていた私に、高梨先生がまた真剣な表情をして口を開いた。


「それで?―――好きな人に彼女ができて、香枝は諦めるんだ?」

「え?」


「まぁ…諦めるのもありだよな。相手の幸せを想ったらそうすべきなのかもしれない」

「そう、…ですよね」

私は先生の言葉に、苦しい気持ちを押し込んで頷いた。


(“相手の幸せを想ったら”…)


「相手がそれで幸せそうなら、だけどな」

「……え?」

先生の付け足した言葉に、私は思わず顔を上げた。


「まぁ、俺は君たちの恋愛(こと)を一部始終見ていた訳ではないから的確なアドバイスはできないけど」


先生が、優しい目をして私を見下ろしている。


「でも、早馬は香枝と付き合ってる時の方が幸せそうに見えたな」

「先生…」


本当に?そう思いますか?

私の…自意識過剰じゃなかったのでしょうか?


『好きなんだ…』

――――あの言葉は…もしかして?


(期待しても、いいんですか?)


『あんたと付き合ってるときはあんたしか見えてなかったし』

翠ちゃんがさっきくれた言葉を思い出したら、私は無くしかけていた自信を取り戻せた気がした。


(朝斗さんと付き合っていたあの瞬間は、全部本物だったって…―――)



考え込んでいた私にニコッと微笑んだ後、なぜか隣の翠ちゃんに視線を向けて先生が言った。


「誰かさんみたいに、素直になれずにいたらタイミング逃すぞ香枝」


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