21
一琉が動けなくなった私に近づいてくる。
そして顔を近づけ、私の髪に触れた。ゾクッと背筋に悪寒が走る。
「…塩素の匂いだ。プール?誰と?」
「一琉に関係ないよ…」
「関係ない?何それウケる」
そう言いながら、一琉は一切笑っていない。
「………」
「ねぇ優妃。その髪、似合ってるとか思ってるの?」
後ろで束ねていた髪に、一琉が触れる。
「…あ、やめてそれは友達の―――」
翠ちゃんに借りていたから返すつもりだったシュシュを一琉が取り上げた。
「あぁ…トモダチ?そうだよね、優妃にはこんな色似合わないし」
シュシュを軽蔑するように見ながら、一琉が言った。口元には笑みを絶やさないけれど、目が笑っていない。
「…―――ヒドイ…」
「酷い?本当のことでしょ?僕は優妃のために言ってるんだよ?」
「………」
いつもこうだ。一琉は私の心に穴を空ける。
穴を拡げて心を裂こうとする。
反論しても、いつも言い返されてしまう。私の考えが…全て間違っているんだと思わされて、何も言えなくなる。
(悔しい…―ー)
私は涙をぐっと堪える為に下唇をギュッと噛む。
「可哀想な優妃。トモダチなんて口先だけの存在なのにね」
そんな私の唇を、一琉が指でなぞる。すごく嬉しそうに、微笑みながら…―――。
「そんなことな「無いって言い切れるの?優妃のこと何も知らないのに?」
(もう、止めて…――――)
「ねぇ、そうだろ?」
「…して」
声が掠れて、うまく声が出なかった。心がズタズタで…声が出ないのだ。
「何?」
一琉が可笑しそうに笑う。まるで、私のそんな様子に満足しているようだった。
「シュシュ、返して!」
唇に触れていた手を払い除けて、私はキッと一琉を睨み付ける。
「優妃が約束してくれたら返すよ」
一琉が微笑みながら、言った。




