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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十四章【クリスマス】
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触れるようなキスを繰り返して私が唇を離そうとした瞬間、朝斗さんの手が私の後頭部を支えるようにまわされ、私が唇を離すより先に、口の隙間から朝斗さんの熱い舌が…入ってきた。


「ふ…っぁ」

吐息が漏れて、それでもキスは止められなくて。この想いも、…止まらない。


(…好き――――…大好き…)




『ヴーッ…ヴーッ…ヴーッ…』


そんな携帯電話のバイブ音が部屋に響き、まるで我に返ったみたいに、朝斗さんが私の肩をそっと押し戻すようにして離れた。


「――――ごめん…」

口元を手で覆って、朝斗さんが目を伏せて言った。

その言葉が、チクリと胸を刺す。


(それは…何に対する謝罪(ことば)ですか?)


そんなこと言わないで。

まるで、悪いことをしてしまったみたいに。

私の気持ちに応えられないみたいに。


「謝らないでください…」

「もう…帰ってくれ……」

私の声と朝斗さんの声が、同時に重なる。

突き放すようなその言葉は私の心に突き刺さった。


だけどそれを呟いた朝斗さんの表情はつらそうだったから、私は朝斗さんに心配かけまいと出来るだけ明るく努めて言った。

「分かりました…。じゃあ、朝斗さんが寝たら帰ります!」


「君がいたら、眠れないよ…」

その言葉に、私はつい堪らなくなって…うつ向いてボソリと言った。


「じゃあ…三浦さん、呼びますか?」


思い知らされる。

私の心は貴方のものだけど…

貴方の心は私のものではないと。

さっきのキスは、私がしただけで…

朝斗さんにとって、私の気持ちはきっと―――…

迷惑でしかないんだって。


「え?」

首をかしげる朝斗さんに、私は苛立ってしまう。


だったら私より、彼女の方が良いってことでしょう?彼女に看病してもらいたいってことですよね?


でも、三浦さんは…――――。

(あぁ…昨日のこと思い出したら…すごい怒りが沸いてきた…)


私は三浦さんのことを告げ口しようと、怒りに任せて話し始めた。


「…朝斗さん、知ってるんですか!?昨日…私、クラスの皆とカラオケ行って、その(あと)「あぁ…知ってるよ」」

だけど私が全てを話すより前に、落ち着いた口調で朝斗さんがそう答えた。

私はそんな朝斗さんに驚いて、思わず口をつぐむ。


――――知ってる?

三浦さんが、どこで何してたか知ってるんですか?

(それならどうして?―――分からない…っ)


「良いんですか?許せるんですか?――…他の男の人といたんですよ?」

苛立ちをぶつけるように、私は朝斗さんに訊ねる。


「何、嫉妬して欲しいの?」

「―――…それは…」

なぜか朝斗さんが挑発的な口調でそう聞き返してきて私に微笑みかける。


嫉妬して欲しい?

違う。そういう感情じゃない。

でも、なんでだろう。

すごく…気に入らないのは…。こんなに悔しいのは…。


私が黙って考え込んでいると、朝斗さんが口を開いた。


「俺だけが特別じゃないのは…分かってる…―――でも…好きなんだ…」


それは小さな声で、すごく愛おしく切なそうに…朝斗さんが言った。

私はショックを隠しきれず、思わず顔を背ける。


(嘘…。そんなに、三浦さんのことを…――――?)


「―――本、当…なんですか?信じられない…だって私、そんなの…「本当だよ」」

だけど、私の言葉を打ち消すぐらいの強い口調で朝斗さんは言い切った。


その瞬間、三浦さんが昨日言った言葉が頭をよぎる。

『朝斗と私は、これで上手くいってるの。あなたがどうこう口出さなくても』


(あれは…本当…だったんだ…?)


「ごめん。今までずっと隠して、自分の本当の気持ちに気付かないようにしてた。ずっと君には…―――君だけには…知られたくなくて。…だけど本当に…俺は…」


ずっと隠して?

じゃあ…私と付き合ってた時から?

本当はずっと、三浦さんのことが?


朝斗さんの言葉が、私の心を突き刺していく。

考えを巡らせて…出たその答えが、残酷なものだと気付かされる。


(そっか…。そうだったんだ…)


受け止めきれない現実に涙が今にも溢れそうになっていた。だけど私は、必死に笑顔を作った。


「分かりました…。帰ります私。」

目の前が涙で歪んで見えた。だけど、笑う。

今だけは、涙を溢したくない。


「無理しないで、ちゃんと彼女さん呼んでくださいね」

明るくそれだけ言って、朝斗さんの家を出た。


アパートを出て、ズンズン早足で歩く。


ちゃんと笑えてたよね?

普通に、出来てたよね?

私…―――頑張ったよね?



ポロリと頬を伝って涙が溢れた瞬間、私はその場にしゃがみこんだ。


「…うっ…っ」


知ってしまった。

朝斗さんがずっと隠していた、別れの理由。

朝斗さんが…私に言わなかったのは。

私が弱かったから言えなかったとかじゃなくて…。



朝斗さんにとって私はとっくに過去の存在(“元カノ”)で。

三浦さんが、今の彼女。…ずっと好きだった人。


彼女が…―――“大切に想ってる人”だったんだ。


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