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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十四章【クリスマス】
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「できた!」

クックパッドを見ながら初めて作った卵粥は、我ながら上手く出来て思わず頬が緩む。


私はそれを、溢さないようにトレーの上に乗せて朝斗さんの部屋へと運んだ。



「ありがとな。…いただきます」

ベッドの上で少し体を起こして、朝斗さんが出来立て熱々の卵粥をスプーンで掬い、口へ運ぶ。

私はそれを、ベッドの下で正座してドキドキしながら見守っていた。


「うん、美味しい…」

朝斗さんがそう言って、私に微笑んでくれた。


「良かったぁ…」

私も安心して、思わず笑みがこぼれる。

人に手作りの料理を食べてもらうなんて初めてで。

その初めての相手が朝斗さんで…幸せだと思った。



「――――温まるし…沁みる…」

朝斗さんが何か小さな声で呟いた。

「え?」

私が朝斗さんに聞き返すと、朝斗さんは寂しそうに小さく笑った。


「――――俺さ…子供の頃から一度もクリスマスとか…サンタとか…無縁だったんだ」

突然ポツリとこぼれた、朝斗さんの過去。


「“一度も”…ですか…?」

「うん、一度も。」

驚いた私に、朝斗さんがまた…寂しそうに微笑む。


「小学校の時、“良い子にしてるとサンタがプレゼントくれるんだ”って友達から聞いて…毎年…密かに期待してたんだ」


手元の…お粥の入った取っ手付のスープボウルに視線を落としたまま、朝斗さんは続ける。


「でもやっぱり何もなくて。“あぁ、今年も自分は良い子じゃなかったんだな”…って、子供ながらに納得してた…」


(そんな…っ)

幼いときの朝斗さんの姿が、あまりにも可哀想で…私は聞いていて泣きそうになった。


その時、ふっと朝斗さんが顔を上げて、私の目を見て言った。

「でも、今年――――初めてサンタが来た…」


「え?そうですか!良かった!!」

(―――今年は来たんですね…。朝斗さん嬉しそう…)

私が明るくそう言うと、朝斗さんがふっと口元を緩ませて笑う。

「うん…ありがとう」

「?」

(――――どうして、私にお礼なんて…?あ、お粥のことか!)


「どういたしまして」

ふふっと得意気に笑う私に、朝斗さんが少し困ったように、笑って…言った。


「香枝さん、これ以上ここにいたら風邪…伝染(うつ)るから」


――――それは、私が今一番…恐れていた言葉だった。

「帰って?俺はもう、大丈夫だから」


甘い空気が、一変して。

まるで魔法が溶けたシンデレラみたいに。

私は現実を突き付けられた。


(嫌だ。嫌です…どうして?急にそんなこと…)


「香枝さん?」

「帰りたくないです…っ、私、」

駄々をこねるように、私は声を荒げて言った。


(せっかく以前(まえ)みたいに話せたのに…それにこのまま帰るなんて…)


「困るよ…。風邪…伝染(うつ)…」

帰るように説得しようと言いかけた朝斗さんの唇に、そっと自分から唇を重ねた。

お粥を手に持っているから、身動きとれないのを良いことに。


「私…馬鹿だから、うつっても平気です。それに、他人(ひと)伝染(うつ)した方が早く治るって言うじゃないですか」


…私は必死に、理由を探した。

今、朝斗さんの唇に触れてしまった理由を。

でもやっぱり私は“馬鹿”で。

私の言葉は、まったく意味を成していなかった。


「――――そんなの全部迷信だよ。それに、言ったよな…俺には今、“彼女”がいるん「朝斗さん、今、ここ(● ●)に居るのは…私です」


私は朝斗さんの言葉を…聞きたくなくてわざと遮った。


「私だけ…だから」

声が震える。泣きそうになる。


分かってます。

こんなの、自分に都合の良い言い訳で。

三浦さん(“彼女”)に最低なことをしてる。

朝斗さんを困らせてる。


(だけど、今だけでも…――――私だけ見て……?)


「だから、私に。伝染(うつ)してください…」


指で…そっと朝斗さんの頬に触れる。

吐息のかかるところまで…顔を近づけて。


―――それでも私を、拒絶しない貴方に。


「優…」

私はまた、キスをした。

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