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朝、私は携帯電話の着信音で私は起きた。
「んんぅ…誰?」
寝起きの悪い私でも、表示されたその相手の名前を見た瞬間、一気に目が覚める。
(え…っ、な、なんで?)
―――――電話をとる手が震えた。
『優妃ちゃん、ちょっと今からウチまで来てもらえないかな?』
紫さんの声が、耳元で聴こえる。
嘘じゃない、現実だ…と、ドキンと心臓が跳ねた。
「え……ど、うしてですか?」
『朝斗が、いま本当に風邪引いてて。でもわたし今から出掛けなくちゃいけないのよ。』
朝斗さんが、風邪?
それは心配…――――だけど…。
「でも私は…。それに、あの…三浦さんは?」
『私、その娘の連絡先も知らないし。ね、お願い!』
本当に急いでるから、と言われて私はアパートの前まで来てしまった。
ドキドキするのと、同時に思い出してしまう。
『もうここにも来ないでくれるかな?迷惑だから』
―――あの日、朝斗さんが言った言葉を。
「あぁ、優妃ちゃん!助かったわ!これ、合鍵!それから、なんかあれば救急車呼んでくれていいから」
「えっ…」
玄関前で立ち尽くしていた私に、玄関のドアを開けた紫さんがそう言うと私の掌に鍵を握らせた。
「じゃあ、よろしくね」
「あ…え…」
紫さんはブーツのヒールをカツカツ鳴らして、走って行ってしまった。
(良いのかな…本当に…?)
「―――――お邪魔、します…」
小さな声でそう呟いて、私は勝手に家に入った。
朝斗さんの家に入ったのはすごく久しぶりで、それだけで胸が一杯で…涙が出そうになる。
(ダメダメ、私は看病を頼まれて来ただけなんだから!しっかりしろ!)
そう気持ちを引き締めて、私は朝斗さんの部屋へ向かった。
「…朝斗さん?」
ドアを開けて、そっと声をかける。でも、朝斗さんから返事はない。
ね、寝てるのかな?
なんだか苦しそう…寒いのかな?それとも暑い?
ベッドに寝ていた朝斗さんにドキドキしながら近付く。
「―――…ひ?」
(え、今…何か言った?)
「朝斗さん、大丈夫ですか… っ?」
そう小さく声をかけながら顔を覗き込んだその時。突然、朝斗さんの腕が伸びて私をぐいとベッドの上に引き込んだ。
(え?起きて…る?)
そう思った瞬間、―――――…唇に熱い…あの感触がした。
「んっ」
(…え………朝斗さ…ん!?…えっ…?)
「好きだ…」
混乱する私の耳元で、朝斗さんが囁いたのは…。
私がずっと欲しかった言葉。
ねぇ朝斗さん…何の夢見てるの?
それは…誰の夢ですか?
誰に向けた言葉なんですか?
――――…涙が溢れる。
それが、夢の中の誰かの代わりだったとしても…涙が出るほど嬉しかった。
(今なら…―――許してもらえますよね…?)
「朝斗さん…好きです。―――好きですよ?」
そう囁いて、眠っている朝斗さんを――――私はそっと抱き締め返した。




