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『優妃?今平気?』
プールからの帰り道、私は電車から降りて家の近くまで来たところで電話を取った。
早馬先輩からの電話は、一日一回。先輩からかけて来てくれる。
「はい、今家の近くで、もう着くところです」
耳から感じる先輩の声。声までイケメンなんて、本当に完璧な人だ。
『プール、楽しかった?』
「はいっ!凄く楽しくてっ」
皆でワイワイ過ごした今日のことを思い出すだけで、自然と顔がにやける。
『凄く楽しかったんだ?声が違う』
「え?」
(そ、そうなのかな?)
『そんな声聞いたら、会いたくなるな』
「えぇっ?」
私は喜びよりも、突然のことで驚いてしまった。
『無理?今から…』
先輩の声が少しだけ小さくなった気がした。
「えっ、イヤ無理じゃないです!」
(ただ、急だからドキドキして…―――)
『優妃の家の近くの駅まで行く、待ってて』
「え、あ、はい」
それだけ言うと、すぐに電話が切れた。
(先輩と会う?今から!?というか、来てくれるの?)
こんな帰るからって何のお洒落もしていない格好で良いんだろうか…。プールのあとに浴びたけど、一旦帰ってシャワーとか浴びた方が…。
ドキドキとそんなことをグルグル考えて心と頭がパニックになりながら、私は家へと帰ろうとクルッと向き直る。
「あ、優妃。」
アイツが待ち構えていたかのように、私の名前を呼んだ。
ドクン…
さっきまでの気持ちが嘘みたいに急速に凍りつくような感覚。
私は血の気が引くのを感じた。足が止まり動けなくなる。
「一琉…」
私の幼馴染みの牧一琉が、微笑みながら私を見つめていた。
「おかえり、優妃」




