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「三浦さんっ」
横断歩道を渡って、私は三浦さんの前に周り込んだ。
「…香枝…さん…?」
驚いた顔をして、三浦さんが立ち止まると、周囲にいた男の人達も彼女につられて立ち止まった。
「誰?―――たまきの友達?」
「この子は―――ただ同じ学校の知り合いなだけ」
私から目をそらして、三浦さんが知り合いの男の人にそう説明した。
「へー、かわいい子じゃん。」
「せっかくだし君も一緒に遊ぶ?」
三浦さんの両隣にいた男の人達が私の方を向いて言った。
知らない男の人に突然ガン見されて、私は身体が強張るのを感じた。
(どうしよう…―――なんか、怖い…)
「…あ…、朝斗さんは…どうしたんですか?」
震える声で…私は三浦さんだけを見て、勇気を振り絞った。
私の言葉に、三浦さんの表情が険しくなる。
「ちょっ、と!香枝さ…っ」
「…なんで一緒じゃないんですか?」
「おいおいお前の友達、なんか怒ってんじゃね?」
私と三浦さんの間に茶々をいれるような男の人の笑い声。それを聞いた三浦さんは、ちょっとこっち来て、と私の腕を引いて男の人たちから少し離れた。
「…勘弁してよ!なんなのこないだから!」
少し声を潜めて、三浦さんが言った。
「だってこんなの、」
私が「間違ってます」と言い終わる前に、三浦さんは言った。
「朝斗と私は、これで上手くいってるの。あなたがどうこう口出さなくても」
(上手く…いってる?)
三浦さんの言葉に、私は驚きのあまり絶句してしまった。彼女はさらに怒った口調で続ける。
「元カノだからって、いちいち干渉して来ないでよ。ってかそーゆーの、ウザいし、イタいよ?」
「そ…―――」
(そんな…――――)
確かにそうだ。
私はいま“朝斗さんの元カノ”で、二人が上手くいってるのなら、私が口を出すのはおかしい。
だけど。
『上手くいってるの』
――――…本当に?
朝斗さんはこれで幸せなの?
不意に、ふわりと笑う朝斗さんの顔が浮かんで、
ギュウゥ…ッと胸が締め付けられた。
――――そんなふうに、思えない…。
「ごめーん。お待たせー」
三浦さんは笑顔で男の人たちの方へ戻るとすぐに行ってしまった。
私はそれを、立ち尽くして見ることしかできなかった。
(朝斗さんは…三浦さんとなら心から笑えてる?)
分からない。
理解できない。
想像できない。―――したくない。
嫉妬だ。私は三浦さんを朝斗さんの“彼女”だと認めたくないと思ってる。
「いつまでそーしてんだ?」
三浦さんの姿が見えなくなるまで立ち尽くしていると、後ろからそんな声がした。聞き覚えのある、優しい声だった。
「帰るだろ?―――――送ってく」
そう言って歩き出す彼の背中を見ながら、私も、後ろをついて歩き出す。
(どうしてここに…―――?)




