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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十三章【クリスマスイブ】
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カラオケルームでのクリスマス会が始まって二時間、クラスの皆は相変わらず盛り上がっている。


私はトイレに行くことを美樹ちゃんに伝えて席を立った。別に退屈していたわけではないけれど、なんとなく外の空気が吸いたかったから。

部屋のドアを開けて出たところで、飲み物を持ってドリンクバーから戻ってきたところの一護くんに遭遇した。


お互いに小さく「あ…」と声が漏れる。


――――一護くんとまともに話すのは、あの日以来だった。


「…この間は、あの…ありがとう…」

あの時泣いてしまった私のために、すぐに動いてくれた一護くん。悪いのは私だったのに、気にかけてくれたことはすごく嬉しかった。


「いや、こっちも悪かったな…。勝手に勘違いして」

一護くんが、なんだかばつが悪そうな表情(かお)をして言う。


「ううん…。こっちこそ誤解させちゃって、ごめんね…」

「いや。それより琳護も酷いこと言って、ごめんな」

「ううん…」


あの時、私が浮気して別れたなんて聞いて…一護くんはどう思っただろう。

私を庇おうとしてくれたのに…幻滅したよね…きっと。


「………」

「………」

私も一護くんも、それ以上何も言えずにうつ向いていた。


(わー沈黙が重い!な、何か話題っ!)


うつ向いたまま、私は頭の中でぐるぐると考える。

(あ!そう言えば、今日透子ちゃんどうしたんだろ?)


「「あの」さ…」


私の「あの」と、一護くんの「あのさ」が見事にハモった。私たちは同時に顔を上げて、バッチリ目が合う。


(………)


「おーい、あと五分で撤収だってー」


扉の向こう―――カラオケの個室内で、そんなクラスの男子の声がしてハッとした。

(今、お互い…目が合ったまま止まってた…?)


「あ…」

「じゃあ、後で…」

ぎこちなくそう言い合って、一護くんはドアを開けて個室内へ、私はトイレへと向かった。




「あーぁ、二時間半で追い出されるとはなー」


カラオケは店が混んできたため、店の規則で二時間以上前からいた客から追い出されることになったそうだ。


「せっかくだし、ファミレスでも行く?」

「いいねぇ」

ゾロゾロと10人ほどのクラスメイトが一斉に移動する。

(なんか、楽しいな…)

こういうのは新鮮で、なんだかお祭り気分だ。


「ってここも、混んでるし…」

近くのファミレスも、すでに混んでいて待ち時間を聞くまでもなさそうだった。


「あー…じゃあ私達帰ろうかな」

同じクラスの女子四人が、そう言うと帰っていく。それを見て、他の数人もじゃあ俺も、私もと帰っていった。


「残念、お開きかぁ…」

その場に残っていた田中くんが残念そうに呟いた。最後まで残っていたのは、田中くんと一護くん、それに私と美樹ちゃんだった。


「じゃあせっかくだし、四人で――…」

田中くんが私と美樹ちゃんにそう言いかけたとき、美樹ちゃんはどこか違う方を見ていた。


「ねぇあれ…三浦さんじゃない?」

美樹ちゃんがじっと目を凝らしながら言う。

「え?どこ?」

私はドキリとしながら、すぐに美樹ちゃんの見ている先に視線を向ける。


(本当に…三浦さんだ…)

私たちのいる場所から大通りを挟んで向かい側の道を彼女は歩いていた。かわいらしい白のワンピースに薄いピンクコートの私服姿で、髪型もオシャレにハーフアップにまとめている。


「と、…誰だろ、あれ?…早馬先輩、じゃないことは確かだよね」

美樹ちゃんが向かい側にいる彼女を見ながらそう呟く。


彼女の隣を歩くのは、全く知らない男の人。しかも一人じゃない。三人だ。


(――――他人(ひと)のこと言えないのは分かってるけど…)


私が嫌だ。

やっぱり嫌だ。


(どうして朝斗さんと付き合っているあなたが、今、そんな人達と?)


彼女なんですよね?

クリスマスなのに、どうして一緒じゃないの?


「早馬先輩ともう別れたのかなぁー?って、え、ちょっと!?優妃?」


――――…気が付いたら走り出していた私の耳に、美樹ちゃんのそんな驚いた声が、風を切る音と一緒に聴こえてきた。

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