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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十三章【クリスマスイブ】
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「優妃ちゃーん」

クリスマスイブの日、私は美樹ちゃんとクリスマス会の場所であるカラオケ店の最寄り駅で待ち合わせしていた。


「美樹ちゃん、ごめんね遅くなって」

待ち合わせ時間ぴったりに着いたら、美樹ちゃんは既にそこにいた。


「ぜんぜーん。あ、こっちのカラオケルームだよ!」

美樹ちゃんの指差す方に視線を向ける途中で、美樹ちゃんの肩越しに幻覚が見えた。


「……え?」

あれは…―ー、朝斗さん…と三浦たまきさん?


見間違いだよ、そんなはずない。

あのカップルの背格好が、似てただけだ。


「優妃ちゃん?どうかした?」

一点を見つめたまま凍りついていた私に、美樹ちゃんが私の視線を辿る。


「あ…ううん。こっち、だよね?」

どこを見ていたのかバレないように、私は慌てて平静を装い笑顔を見せる。




――――




「優妃ちゃん連れてきましたー」


美樹ちゃんが、カラオケルームの個室のドアを開けながら言うと、すでにそこには数人のクラスメイトがいた。


「おぉー、メリークリスマース」

一護くんと仲の良いクラスメイトの田中遼くんが私と美樹ちゃんを笑顔で迎えてくれた。田中くんはクラスでもムードメーカでいつも元気だ。


「おま、マイク使うなよ!うるせー」

マイクを持ってはしゃいでいた田中くんに、すかさずそうツッコむ一護くんの姿に私は目を丸くする。


「一護くん?…―――あれ?透子ちゃん、は?」


―――…シーン。

私の何気ない一言で、賑やかだったカラオケルームが一瞬静まり返った、…気がした。


(え…―――?)


「ま、まーまーまー。美樹ちゃんと優妃ちゃんはここ座ってー」

田中くんが取り成すようにそう言って、私と美樹ちゃんを奥の席へ座らせてくれる。


「私、何かまずいこと言ったのかな?」


席に座ってからこそっと隣の美樹ちゃんに訊ねると、美樹ちゃんはどこかよそよそしく目をそらす。


「あー、どーだろ…。それより優妃ちゃんは普段何歌うの?一緒になんか歌おうよ」


テーブルの上にあったリモコンに手を伸ばしながら、美樹ちゃんが言った。


「あ、えっと私…ノリのいい曲とかあまり知らなくて…」

「じゃあさ、これは?」

「あ、それなら歌える、かも…」


初めて友達とカラオケに来たから、私はドキドキしていた。

楽しい。ずっと憧れてたから。こういうの。


だけど、心からはしゃげない自分がいた。

頭の片隅ではずっと、朝斗さんのこと考えてる。


今日は三浦さんとデートしてるの?

三浦さんと、どんなふうに過ごしてるの?


(イヤダ…)


三浦さんは可愛いから、朝斗さんの隣を歩いていてもお似合いなんだろうな。


(イヤダ…)


鳴るはずのない携帯電話を確認しては、無意識にため息をつく。


「優妃ちゃん、次うちらだよ?」

「あ、ありがとう」

美樹ちゃんにマイクを渡されて、私はまた緊張でドキドキしながら曲のイントロを聴いていた。


(気にするの、止めよう…。今だけは…)

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