【朝斗視点】18~大切な人~(2)
「一琉、毎日のように来てるな…」
廊下の窓から見える正門を指差して、琳護が言った。
「へぇ…」
「なぁ…本当にこれで良かったのか?」
「………」
俺が微笑んで誤魔化した時、ちょうど彼女からlineが来た。
「――――彼女と帰るから、じゃあな」
「あ、あぁ…じゃあな」
琳護は歯切れの悪い返事をして俺を見送った。
「今日、ウチ来る?」
帰りながら、俺は彼女を誘った。なんでそんなことを口走ったのか、自分でも分からなかった。
「えっ!?良いんですかー?やったぁー!」
俺の本心を知らない彼女は嬉しそうに笑う。
(なんだろうな、これ。―――…虚しさしかない…)
「あ…帰ってたんだ?」
鍵を開けようとしたとき、紫が玄関のドアを開けて出てきた。
「今…、――――てか朝斗、その女誰?」
俺の隣に立っていた彼女に視線を向けて、紫が眉を潜めた。
「彼女だけど?」
ドガッ!
俺が言い終わるより早く、鳩尾に食い込むような痛みが走った。俺は鳩尾を抑えて屈み込む。
(こいつ…っ!!なんなんだよいきなり…っ!)
「朝斗先輩、大丈夫ですかっ?」
彼女が心配そうに顔を覗き込む。
「ここ、わたしの家だから…あんたは帰んなさい」
紫がドスの効いた声で彼女に言うと彼女は何も言わず、すぐに帰っていった。
「で?何やってんの、優妃ちゃんは?」
呆れた顔で、紫が問い掛ける。
「は!いつの話してんだよ」
俺は鼻で笑いながらそう答えた。
そんな二ヶ月も前の話。
まだ知らなかったの、紫ぐらいだろ。
「―――別れたの…?」
「だったらなんだよ…」
信じられないという表情に、無性に腹が立った。
「なんで?」
「“なんで”?…――もう、要らなくなったから」
わざと悪態をつく俺を、紫はもう一度殴ろうとした。その拳を、今度は素早く受け止める。
「つか、鳩尾にパンチすんな」
「顔にしたら優妃ちゃんが泣くと思ったからよ!!」
紫が声をあげる。泣きそうな顔をして。
「………」
――――…泣くだろうな。
例え別れていても、あの子なら。
あの子は馬鹿がつくほどお人好しで、優しいから。
(だけど俺は、それがー―――痛いんだよ)
早く忘れたい。
あれは夢だったんだと。
そう思える日が、早く来ればいい。
(こんな気持ちは、要らないんだ…もう)
『これで良かったのか?』
琳護の言葉が、頭の中でもう一度問い掛けてくる。
“これで良かった”んじゃない。
―――こうするしか、なかったんだ。




