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恋してるだけ   作者: 夢呂
番外編【朝斗視点での物語】
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【朝斗視点】18~大切な人~(1)

「おい、どうなってるんだよ…!!」


月曜日、一護のところへ行ってくると言っていた琳護が教室へ戻ってくるなり俺のところへ興奮しながらヅカヅカとやって来て言った。


「優妃ちゃんと(わか)「その話はするな。何も聞きたくないし、話す気もない」

琳護の言葉を、俺は低い声でそう制した。


「朝斗…」

琳護が心配そうに俺を見る。

多分今俺は、普段通りに出来ていないからだろう。



別れたなんて、本当は誰にも知られたくない。

俺は今も、優妃が好きだ。

優妃を誰にも渡したくないと思う気持ちは、ずっと無くならないんだ、別れても。


この気持ちさえなくなれば、今まで通りなのに。


苦しい…つらい…。

優妃に逢いたい。


こんなつらいなら、いっそ嫌いになりたい。






――――――――――――






「朝斗くん!」

「……先輩。…何か?」

「今日久々にウチ来ない?親も仕事で居ないし慰めてあげるっ!」

「―――貴女の家に行っても、俺は何もすることがないので遠慮しておきます」

「えー、つれないなぁ」

「・・・では」


俺と優妃が別れたという話がどこから漏れたのか。

それとも優妃と一緒に登下校しなくなったり、校内で一緒にいることがなくったからなのか。

翌日から俺は、彼女達に執拗に誘われるようになった。




「朝斗、疲れてるな」

琳護が俺を見て気の毒そうに眉を下げて笑う。


「・・・そんなことない」

頬杖をついたまま窓の外を眺めて俺は答えた。


そんなことない。

生きているのかどうかも、分からない。

退屈で、無気力、そして…孤独。


「なぁ…お前さ」

「おい早馬、一年女子が呼んでるぞ」

何か言いかけた琳護の言葉は、タイミングよくクラスのやつに遮られた。

そいつは伝言係をやらされたのがよほど気に入らなかったのか、それだけ言うと俺を一睨みして自分の席についた。


「行ってくる…」

溜め息混じりにそう言って、俺は席を立った。



彼女と別れてから、見ず知らずの女子から呼び出される日が増えていた。

正直めんどくさいし、どうでもいい。言うならまとめて数人で来て欲しいぐらいだ。一日に何回も同じ台詞を言うことにも、うんざりしていた。


「早馬先輩…」

「………」

「私…、あの…。早馬先輩のこと、すす…好きです」

「ありがとう。……でもごめんな」


まったく心が動かないんだ、君だと。

俺の心を動かせるのは…―――あの子だけだから。






ある日の放課後、俺は裏庭へと向かっていた。

人伝に『裏庭の少し奥にある物置小屋に来るまで待ってる』と強引に呼び出されたからだ。


(来るまで待ってる…って、脅しかよ…)

めんどくさい女だなと思いながら、俺はそこへ向かった。


「あ、本当に来てくれた…っ!」

目を輝かせて、その子が言った。


(やっぱ来なくても、良かったな…)

そう思った俺はすぐに帰ろうといつもの微笑みを向ける。


「何かな?」

「私、早馬先輩が好きです!!付き合ってください!!」

「―――…っ」


いつもなら、即答で同じ台詞を口にしていた。

だが、それが出来なかったのは。

久々に心が乱れたからだ。


(――――優、妃…っ)

間違いない。

見間違いなんかではない。

目の前にいる女子の後ろに、確かに今―――。

一瞬優妃が顔を覗かせて…俺と目があった。


(逢いたい。抱き締めたい。声が聞きたい。)


「あの?―――早馬先輩?」

目の前にいる女子の声で、俺は現実に引き戻された。


「ごめん、気持ちは嬉しいけど…大切に想ってる人がいるから」

そこに隠れている優妃に聞こえるようにと…自然と声が大きくなる。



馬鹿か。

何言ってるんだ俺は。

優妃とは終わりにしたんだ。

あの子に関わると、“今の自分”が保てなくなる。



「え…それってもしかして元カノとかですか?」

「………」

俺は何も言わず、君には関係ないよ?と顔に出して優しく微笑む。


「元カノとより戻す気なら、「それはないよ」」

“それはない”と言いながら心を痛めている自分に自嘲してしまう。


「じゃあ他に好きな人が、「君は?」」

しつこく質問してくる彼女に、俺は逆に問い掛けた。


「君は俺のどこが好きだって言ってるの?」

「顔です!」

「は…っ。何だそれ。」

即答でそう言ったこの子に、俺は呆れ果てて思わず笑ってしまった。


「ねぇ先輩、他に“大切な人”がいてもいいから、私を彼女にしてくれませんか?」

「………」

「私の、“自慢の”彼氏に!」


それもいいかもしれない。

この子を“彼女”にすれば、告白されて断るというめんどくさい工程を減らせるかもしれない。

利用価値はある。


「いいよ、付き合おうか。君、名前は?」

「一年二組、三浦たまきです」


にっこり笑うこの子を見たとき、自分と似たものを感じた。


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