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恋してるだけ   作者: 夢呂
番外編【朝斗視点での物語】
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【朝斗視点】12~不安定なこの心~(2)

「うわ、昨日とはうって変わって今日は随分と近寄りがたいねー、朝斗くん」

昼休み、琳護がそう言いながらニヤついている。


「…じゃあ寄るな」

「さては、優妃ちゃんと何かあったな?」

「別に…もう関係ない」

俺はコンビニ弁当を食べながら素っ気なく答えた。


「はっ?なんで?」

「………別れたから」

「はっ?なんで?」

「………」

しつこい琳護をスルーしていると、琳護は俺の前から姿を消した。


(“別れた”…)

自分で口に出して、ダメージ受けるなんて。

…重症だ。


「おい、朝斗!お呼び出しだぞ」

「は?」

(こんなときに――――…誰が…)

教室のドアからそう呼び掛けてくる琳護に俺はつい顔を向ける。

(―――優、妃?)


琳護が俺のところへ戻ってくる。

「よくわかんねーけど、痴話喧嘩だろ?仲直りして来いよ」

「痴話喧嘩?」


そんなんじゃないだろ。

昨日のあれは…。


思い出すだけで、ズーンと心が重くなる。


「まぁまぁ、行ってこいよ!彼女、あの痛ーい視線浴びながらも、ずっと待ってるんだから」

琳護が苦笑しながら廊下に視線を促す。

優妃は女子達から、また痛いほどの視線を浴びせられていた。


(―――…なんで、来たんだよ…)

結局俺は、琳護によって強制的に優妃の元へと連れていかれた。


「何?」

「すみません、少しだけお時間貰えませんか?」

「悪いけど、あまり時間ないから」

俺は目を合わせず、素っ気なく言った。


「………」

「朝斗さん。私―――朝斗さんのことが好きです」

「そう。…それで?」

勝手に口がそう言い放っていた。


「…それで…って…。」

優妃はそこで、絶句してしまった。

また泣きそうになっている。


「朝斗さん…もう、ダメですか?」

「何が?」

「私…別れたくないです…」

(…分からない…)

なんでそんな思わせ振りなこと言うんだ。

昨日泣いて、嫌がっていたのは君なのに。


「あのさ、」

俯いて、ぎゅっと涙を堪えていた優妃の肩を抱き寄せるようにして琳護が隣に立った。


(こいつ…っ!!!)


「優妃ちゃん。朝斗のことはもう忘れて、俺と付き合おうよ」

「は?」

この上なく不機嫌な声が漏れる。

優妃は驚いて琳護を凝視したまま固まっていた。


「朝斗はもう、君のことどーでもいいってさ。だから付き合うのは難しいよ。ね、朝斗?」

「え…」

琳護の言葉に、優妃はショックを受ける。


違う。あれは…。

つか離れろ!

優妃は俺の…―――


苛立ちながら頭の中でそんなことを考えていたことに、ハッとした。


琳護は愉しそうにさらに続ける。

「俺ならあまりに可愛いからって昨日みたいに不意打ちでキスなんかしないし」

「おい琳護、黙れ」


(こいつ、見てたな。昨日の…。マジでタチ悪い。)


「泣かれたらどうしたらいいのか分からなくて、つい別れるとか言っちゃって、その後ひたすら後悔とかしないし」

「それって…―――「ちょっと来て」

琳護の話に食いつこうとした優妃の手を無理やり引いて、琳護から引き離す。

(あ、しまった…)

また拒絶される…と思ったが、優妃は手を振り払わなかった。


「朝斗さん…今の琳護先輩の話って…」

前を向いたまま早足で歩く俺に、腕を引かれたまま優妃が話し掛ける。


「これ以上、みっともないところ見せたくなかったんだけど」

近くの空き教室に入ると八つ当たり気味にドアを閉める。

そして、苛立った口調のままボソッと言う。


「どうしたらいいのか分からなくなるんだよ…優妃が泣くと」

顔を片手で隠すようにして、恥ずかしさを誤魔化す。


(みっともねーな…本当に…)


琳護が言っていたことは、ほぼ正解で。

「別れよう」なんて本心からではなくて。

―――…本当は、ただ拗ねていただけで。


「朝斗さん…」

「だからそんな嫌なら別れようと思ったんだよ…っ」

「私…別れるのが嫌です…」


君はそうやって、また無責任に無防備に、俺に近づいてきて。

―――俺の心を乱すんだ。


「だから、そうやって…―――「す、すみませんっ」

何を言いかけていたのか、忘れてしまった。

突然謝られたと思ったら、優妃が思い切り抱き付いてきたせいで思考が停止した。


背中に腕を回してガシッとしがみつくみたいな…まったく色気のない抱擁…だったけど。


君はそうやってー―――俺の心を乱す。

ずっと不安定だ、君と付き合い始めてから。


だが、それでもいいと思えてしまうのは―――…


「優妃…顔上げて?」

(なぁ…気づいてないだろ…?)

声色が、いつも通り優しくなっていた。


「………」

優妃は真っ赤になった顔を、言われた通り上げる。


「好きだ」

顔を近付けて、優妃にだけ聴こえる声でそう囁く。

遠慮がちに彼女の頬にそっと触れると―――優妃はそっと目を閉じた。


(好きなんだ…制御出来ないほど…君のことが)


「―――っん…」

窺うようにゆっくりと…優しい口付けを落とすと、優妃はまた泣いた。

だけどその涙は…昨日のものとは違うと思えた。


「しょっぱ…」

唇を離して、俺は意地悪い笑顔で言うと、

「すみま…――っん」

謝ろうとした優妃の唇を、今度はすばやく塞ぐ。


もう、謝らなくていいから。

もう一度、好きだと言って。

もう一度、俺と別れたくないと言ってくれ。

それだけでいい。それしかいらない。


そしたら俺の心は…満たされるから。


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