【朝斗視点】11~文化祭準備~
「えー…、くじ引きの結果、うちのクラスが今年の演劇担当になりました」
ホームルームでクラス委員の田中が申し訳なさそうにそう告げた。
「えぇー…」「マジか…」「ダル…」
クラス中からブーイングを浴びて、田中は涙目になっている。
南高校の文化祭は、毎年二年生の中の一クラスが出し物として演劇をやることになっている。
そしてそれはくじ引きで決まるのだが、どうやら昨日の集会で、今年はそれがうちのクラスになったらしい。
「やめてやれよ、田中が泣きそうだよ?」
琳護が半笑いで声をあげる。
「どうせやるなら、みんなで頑張ろうぜ」
「…そ、そうだね」「やるか!」
琳護がそう言って笑うと、自然とほかのやつらもそれに賛同するから不思議だ。
「では、演目についてですが…―――」
ホッとしたような田中が、話を進めていく。
(まぁ、俺には関係ない…)
――――――――
「早馬くんがやればよかったのに、ロミオ」
放課後、演劇の準備を途中で抜け出して実行委員の仕事のために別室へと向かっていたところで、同じクラスの女子がそう声をかけてきた。
「はは、俺は実行委員の仕事で手一杯だからね」
笑顔でそう交わしながら、心の中で毒づく。
(誰がやるか、あんなモノ)
「えー、でも田中くんだと華がないっていうかー」
「そうそう、ジュリエット役の愛奈が可哀想だよね
」
「ね、もはや罰ゲーム」
俺の隣を歩くクラスの女子がいつのまにか三人に増えていた。
「………」
(それにしてもひどい言われようだな、田中。)
――――彼にそう同情していたときだった。
「あ…」
靴箱のところで、偶然優妃に会った。
「―――優妃、帰るの?」
「あ、はい…」
なぜか顔を上げずに、優妃がうつ向いたまま答えた。
(恥ずかしがってる、…のか?)
「初めまして、早馬先輩。優妃と同じクラスの逢沢翠です」
そんな優妃を横目に、逢沢が明らかに他人行儀な笑顔を向けてそう言った。
(あぁ、“初対面”ってことか)
「どうも」
だから俺も、いつもどおり外面の作り笑顔で応える。
「優妃は今から私と手芸屋に寄ってから帰ります。――――…いいですよね?」
(なんだよ、)
「もちろん」
(また何か、言いたそうだな逢沢…)
うつ向いたままの優妃の顔を覗き込もうとしたその時、離れたところから「朝斗くーん」と俺を呼ぶ声がして、そちらに視線を向ける。
実行委員の女子が、何やら大荷物を運ぼうとしている所だった。
「行かなきゃ…。―――また連絡する。」
名残惜しくはあったが仕方ない。
優妃の頭をそっと撫でて、俺は仕事へと戻る。
この時、優妃の頭の中に一護の存在がいたことなんて 知るはずがない俺は、優妃と上手くやっていけてると思っていた。




