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恋してるだけ   作者: 夢呂
番外編【朝斗視点での物語】
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【朝斗視点】2~花火大会~

一学期の終業式の日に、全校生徒が集まる体育館で彼女を見かけた。


『ごめんなさい…』

―――俺に頭を下げた香枝優妃(彼女)


一年の女子なんて、少なくないはずなのにどうしてすぐに彼女のことを見つけていたのか。偶然にしては出来すぎている気がした。


(………?)


暫くして、自分が彼女の姿を目で追っていることに気が付いてさらに驚いた。


(なぜだ?別にどうでもいいはずだろ…女なんて。)



――――――



「ねぇ朝斗、花火大会でも行かない?」


――――夏休みに入ったばかりのある日。


紫が俺の部屋に入って来た。大学生のくせに、いつも暇潰しを俺の部屋(ここ)でする。



「は?めんどくせーよ、なんで俺がお前と」

夏休みの課題に手をつけながら、顔を向けることもせずに俺は即答する。


「おねがーい。だって彼氏と別れたばっかでつまんないんだもん」

「知らねーって、それ自業自得だろ?つか、口調キモイ」

「は?」


だいたい紫と行って何が楽しいんだよ、と睨み付けると、一瞬キレかけた表情の紫が、ニヤリと笑う。


「あらあら。随分荒れてるのねぇ、当ててあげようか?」

俺の顔を覗き込み、面白そうなものを見つけたように微笑む。


「さては朝斗くん、フラれたんでしょう?」


「は?」

つい、ノートの上で動かしていたシャープペンを持つ手が止まる。


「ふふ、図星か。さては花火大会でその子と鉢合わせたらきまずいとかそんな感じ?」


(鉢合わせたら…?彼女が行くかどうかなんかも知らねーんだよ、こっちは)

不機嫌なのが表情(かお)に出てしまったのか、紫がますます愉しそうに笑う。


「おねーさんを侮らないでよね」


(――――…そんなの、どんだけの確率だよ)


「ちょっと朝斗、どこ行くの?」

部屋を出かけた俺に、紫が声をかける。


「行きたいんだろ?花火大会」

「…うんっ!ちょっと待ってて、浴衣着てくるから」

紫がハイテンションになり、小走りに部屋を出ていった。

(――――イイ歳して、なんなんだ、あいつは。)


俺はため息をつき、机へと向き直る。

紫が支度を終わらせてくるまで、夏休みの課題を続けることにした。


――――浴衣…か…。


(あの子、浴衣とか着たら似合いそう、だな…)


ふと、そんなことを思って。

そんなことを思った自分に、苛立った。


(なに考えてんだ…俺は。馬鹿馬鹿しい…)




―――――



「ちょっと見ろよ、スゲー美人」

「連れの男がイケメン過ぎるわ、俺らじゃムリムリ」


花火大会の会場を歩いているとそんな声が聞こえてきた。

隣を歩く紫はそうでしょう、もっと言ってと言わんばかりの笑みを浮かべている。


(コイツ、本当にイイ性格してるよな…)


横目で紫を見ながら感心していると、何やら近くで聞き覚えのある声がした。


「っつうか、誰か持つの手伝えよ!持ちきれねーから」

「あ、私手伝うよ!」「お、サンキュ」


(この声…一護?)


何気なく向けた視線の先に、一護と…彼女、…―――香枝優妃がいた。

思った通り、浴衣姿はよく似合っていて可愛らしかった。

だけど、そんな彼女の姿よりも俺が一番に頭に浮かんだのは――…。


(なん…で――――一護、と?)


目の前が真っ暗になった気がした。


「はい、香枝の分。」「え?」

「早く、他の落ちそう」

「ありがとう…」

「どういたしまして」


一護の手から水飴を取り、嬉しそうに笑う彼女を見た瞬間、今まで感じたことがないような感情が芽生えた。


(俺にはあの態度(「ごめんなさい」)で、一護には笑うのか…)


悔しかった。

一護に負けた気がした。

俺が見たかった笑顔なのに、先に奪われたような…よく分からないがとにかく不快だった。


「朝斗?どした?」

紫が俺に訊ねる。コイツはいつも俺の些細な異変に気が付いてくる。本当に厄介なやつだ。


「何でもない」

――――…そうだ、何でもない。


(あの子のことなんて、別にもうどうでもいい。)


そう言い聞かせている自分に、この時俺は気づいていなかった。


(一護とでも、付き合えばいい…)


そう思った。―――そう思おうとした…。


なのに、――――不快な気持ちは収まるどころか募る一方だった。


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