【朝斗視点】1~夏休み前~
「香枝さん、俺と付き合わない?」
数日後、彼女にそう声をかけたのはただの気紛れだった。
花壇に水やりをしていた彼女は、なぜかキョロキョロと辺りを見回す。
「香枝、優妃ちゃん?」
(―――…で、名前合ってるよな?)
なぜか返事をしないでいる彼女に、俺はもう一度呼びかけてみた。
「ええと…――――」
突然の話に驚きを隠せないのか、丸い目をさらに丸くして、彼女は顔はみるみる赤く染っていった。
―――そしてあまりの事態に、困惑しているようだった。
「ごめんなさい…」
暫くして、彼女は頭を下げた。
「そっか、分かった…」
俺はそう答えて、踵を返しその場を去る。だけど本当は何も分かってなどいなかった。
(―――『ごめんなさい』って…つまりフラれた?)
人生で初めてだった。
告白したのも。
フラれたのも。
しかもその場で、ほぼ即答で。
フッたことはあっても、フラれたことは無かった。
だから何だか可笑しくて、笑ってしまった。
試したかったのかもしれない。
彼女はなんて答えるのか。
俺と付き合うことに対して、どう答えるのか。
(ま。―――別に、いいか。どうでも)
あの子の返事は“No”だった。
意外だったが、それでも別にどうでもいい。
彼女だけが女じゃない。というか、女には全く不自由してない。
歩いて教室へ向かうところでズボンに入れていたスマホが鳴った。
『…もしもし朝斗?―――今から会える?』
「ああ、良いよ」
俺はそう素っ気なく答えて通話を切った。
(―…別に、どうでもいいー―――…)




