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「クリスマスだなぁ…」
街中どこもイルミネーションが煌めいていて、歩きながらつい、そんな言葉が出た。
「なに、急に?」
一琉が私の呟きに反応して、こちらを向く。
帰り道、一琉が今日がおばさんの誕生日だから二駅先にあるケーキ屋さんに行きたいと言うので、一緒に寄り道をしていた。
「なんか、毎年のことなのにイルミネーションがキラキラしてるの見たら、クリスマスだなぁって」
毎年訪れるクリスマス。
いつもは、家族と過ごしていたクリスマス。
中学校の頃はこんなふうにクリスマスの時期の帰りに街中を寄り道だなんてしたこともなかったし、
今年は友達と初めて過ごすから、なんだかワクワクしている。
「あぁ、そういえば“予定”はどうだった?」
一琉が微笑みながらなぜか愉しそうに訊ねてきた。
「あ、24日に、クラスのみんなでクリスマス会があってね、」
「え、本当にあったんだ?」
一琉が意表を突かれたように大きな目をパチクリさせた。
(そうだった…!!)
「あ、あるよ…っ!そう、言ってたでしょ?」
嘘がたまたま本当になったことにホッとしながら、私はそれが一琉にバレないかハラハラしていた。
「じゃあ、25日は一緒に過ごせるんだ?」
一琉が悪戯な表情で、ニヤリと笑う。
(一琉は、どうしてそんなふうに…―――)
ずっと、“幼馴染みとして”傍にいてくれるんだろう?私の気持ちを、知っていながらどうして…?
「…ありがとね」
「は?」
「正直…朝斗さんと別れてからずっと、こうして一琉が傍にいてくれたから、私…いまも普通でいられるんだと思う」
『君を好きにならなきゃよかった…』
今日朝斗さんに言われた言葉が、ずっと耳に残ってる。
今までの私なら一人でもっと落ち込んでた。ネガティブなことばかり考えて、押し潰されて。
こんなふうに、話しながら寄り道なんて出来なかったと思う。
だけど、紫さん、美樹ちゃん、明日香ちゃん、皆が私を応援してくれて、思ってくれているのが分かっただけで、今はこんなに心強い。
―――そして、一琉。
一琉がずっと私の傍にいてくれて、どれだけ救われたか。
「だから、ありがと…。」
恥ずかしくてヘヘッと照れ笑いをする私と目があった瞬間、一琉が目をそらした。
「…そんなこと、ないよ」
そっぽを向いたまま、一琉が小さな声で言った。
「ふふ。一琉が謙遜するなんて、明日は雪かもね」
いつものお返しにと冗談交じりにからかっても、一琉は珍しく言い返して来ない。
「一琉?」
「優妃、僕…―――」
不思議に思って顔を覗き込むと、一琉は少し伏し目がちに何か言いかけて、立ち止まるとこちらを向いた。
「ん?」
「…いや、なんでもない」
首を傾けて一琉の話を待っていた私に、目をそらして一琉はまたスタスタと歩き出した。
(なんだったの?―――変な一琉…)




