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『君を好きにならなきゃよかった…』
抱き締めた私の耳元から聴こえてきたのは朝斗さんのそんな嘆くような声。
『君を好きにならなきゃよかった…』
(私のことを?)
それはまるで、後悔しているかのように。
それが原因?
私を好きになったから、朝斗さんは今苦しんでいるの?
「俺、先行くわ…」
もっと朝斗さんの本音を聴きたかったのに、保険医の先生が戻ってくる足音に気がついた朝斗さんは私の身体をそっと押し戻した。
「朝斗さん、私…」
私が言いかけたところでガラッとドアが開き、保険医の先生が入ってくるタイミングで朝斗さんは保健室から出ていった。
『君を好きにならなきゃよかった…』
朝斗さんの言葉が、ずっと頭の中で繰り返し再生される。
朝斗さんはあぁ言っていたけれど、なぜか私には“まだ好きだ”と言われているようにも感じた。
(なんて、そんなのほぼ願望だけど…――――)
目を伏せて、心の中で自嘲する。
「ゆーひ!」
「わ…っ」
突然目の前に、美樹ちゃんの顔がニョキッと現れて、私は驚いてしまった。気がついたらいつのまにか、朝のホームルームが終わったところだった。
「ビックリした…」
「ビックリしたのはこっちよ」
私の驚きの声が相当大きかったのか、美樹ちゃんが驚いた表情で笑う。
「さっきから呼んでたのにさ」
「あ…。ごめんね、ボーッとしてた」
私は笑ってそう誤魔化した。私はいつもボーッとしてるから、美樹ちゃんは特に不審に思わないようだった。
「あ、そうそう!クリスマスイブ、予定ある?なかったらクラスのメンバーでクリスマス会でもやろうって話があるんだけど行かない?」
美樹ちゃんが、明るくそう言った。
「い、行く!」
友達とクリスマス会なんて初めてで、私は目を輝かせて即答した。
「良かったー、明日香と翠は来れないって言うからさぁ」
「あ、明日香ちゃんと翠ちゃん、来れないんだ」
(翠ちゃんが来れないのは、少し寂しいな…。)
だけど私はずっと翠ちゃんに頼りすぎてるから…、居なくても大丈夫にならないと…。
「明日香は家の用事みたいだけど、翠はリア充だからでしょ!」
「はは…」
美樹ちゃんが「リア充」のところだけ不機嫌そうに言うから、私はつい笑ってしまった。
(クリスマスは彼氏彼女がいたら、カップルで過ごすイベントだもん、ね。)
――――朝斗さんも、三浦さんと過ごすんだろうか?
(嫌だな…それは…――――)
三浦さんに嫉妬しながら、私はまたあの言葉の意味を考えてる。
『君を好きにならなきゃよかった…』




