【朝斗視点】 149・150
朝、突然現れたのは香枝優妃――――俺の初めての“彼女”だった女。
どうでもよかった、退屈だった俺の日常を…思いがけず変えた、不思議な女。
そしてそれが、知らなかった自分の心情に気付かされる引き金になるなんて…思わなかった。
別れを告げてからずっと視界に入らないようにしていたのに、突然俺の前に現れた彼女の目からは強い意志を感じた。
直視できないぐらいに…――。
いつも、眩しいくらい真っ白な心を持つ彼女。
そこが好きだった、だけど、それが憎くもあった。
俺とは違いすぎるから――――…。
話の途中で俺のクラスの女子達に突き飛ばされ、膝を怪我した優妃。
それを目の当たりにした瞬間、久しぶりに感情が沸き起こるのを感じた。
「謝れよ…」
自分で感情をコントロールできない。
(それじゃ意味がないじゃないか…―――)
なんとか冷静さを取り戻して、俺は優妃に手を差し伸べる。
「…歩ける?」
優妃に手を差し伸べたのは、足を怪我したから。
優妃でなくても、きっと俺は同じことをしたはずだ。
(いや、違うだろ…)
本当なら、ここまでする必要なんてない。
自分に言い訳して、本当は彼女に触れたいだけだ。
現に俺はいま久しぶりに優妃の手に触れて、胸が熱くなっている。
(何してるんだ、俺は…―――)
もう彼女には近付かないと決めたのは自分だろ。
――――近付いたら、止められなくなるから。
戻れなくなるから。
顔を上げることなく、素早く手当てを済ませて、一刻も早くこの場から立ち去りたかった。
―――優妃の声が、俺の心を支配する前に。
「朝斗さんが今抱えてるその“何か”を、半分は分けてもらえるように…私、強くなりますから。―――だから、いつかすべて…話してくれませんか?」
(君はいつも、俺の思い通りになってくれない…)
傍にいて欲しい時には逃げて
抱き締めれば拒絶する。
すぐにいっぱいいっぱいになって泣くし、
突然放っといてくれと言ったかと思えば、会いたいと言ってくる。
そして今は…――
(別れた俺に、どうしてそんなことを言うんだよ…)
「心を閉ざすことなんて、しないでください。必要なら私、いつでも駆け付けますから。」
(優妃…)
我慢できず、ずっと避けていた彼女の顔を見上げた瞬間…――。
まるで天女が降りてくるかのように丸イスから、優妃が腕を広げて…屈み込んでいた俺をふわりと抱き締めた。
(優妃…)
君とずっと、一緒にいれたら良かった。
あの時間がずっと、続けば良かったのに。
「君を好きにならなきゃよかった…」




