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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十二章【向き合いたい人、逃げたい人】
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正門が見える一直線の道に差し掛かるところで、私は紫さんと別れた。


正門までのこの道を一人、朝斗さんのことを考えながら進む。


―――朝斗さんに別れようと言われたのは、私が一琉とディスティニーランドに行ったのが原因だと思ってた。

浮気に値することなんて何もなかったけれど、…それでも朝斗さんを傷付けたのならそれは“浮気”なんだと。


だけど朝斗さんは、それに怒って別れを告げたわけではなかった?


『以前から言わなきゃとは思ってたんだ』


『やっぱり君とは付き合えない。別れよう』



“以前から”って、いつから?

あの時の切なげな表情は、何を思っていたの?


『大切に想っている人がいるから…』

――――それは、本当に“今の彼女”(三浦たまき)さん?



朝斗さんの本当の気持ちはどこにあるんだろう?


知りたい…。

――――知るために私が出来ることは…。




私は上靴に履き替えると、そのまま二年生のクラスに向かった。

二年二組の…―――朝斗さんのクラスへ。


朝斗さんは同じクラスの女子たちに囲まれて席に座っていた。楽しそうにお喋りをする女子達の中心に、心を閉ざしたようなあの、完璧な微笑みを浮かべて…―ー―。


「朝斗さんっ」


クラス中に聞こえるの声で、私は朝斗さんを呼んだ。こちらを向いた朝斗さんは、少し目を見開いた。


「ゆ…」

何かを言いかけて、朝斗さんは口をつぐむ。


「お時間、いいですか?聞きたいことがあるんです、私…」


「―――…何かな?」

廊下まで出てきてくれた朝斗さんは、こちらを見ようともしてくれなかった。壁にもたれ掛かり腕組みをする朝斗さんの正面に立って、震える足に力を入れる。


「…私と別れようと思ったのは、どうしてですか?」

ドキドキした。心が震えていた。きっと声も、震えていたと思う。


私の問いかけに、朝斗さんは目を伏せた。長い睫毛が影を落とす。

久しぶりに間近で見る朝斗さんの横顔は、とても格好良くて…同時にまた、遠い存在に戻ってしまった気がした。


「そんなこと…今さら聞いてどうするの?もう過去のことだよな?俺にはいま彼女がいるし、――…香枝さんも…あの幼馴染みと付き合ってるんだろ?」


(“香枝さん”?

もう…名前では、呼んでくれないんですか…?)


そんな呼び方ひとつで、私の心にトゲが突き刺さった。

一度空いたこの距離は、もう戻せないのかもしれない。

(だけど。例えそうだとしても…―ー――)


―――私は、スカートの裾をぎゅっと掴む。


(勇気を出さなきゃ…何も変えられない!)


「一琉とは付き合ってません。そんなことはありえません。だって私は、ずっと…―――」


「あーさとっ」

突然ドンと背中から押されて、前のめりに転んだ私は廊下で膝を擦りむいた。


((ぃた)…っ)


「あれー?今なんかぶつかったかもー」

「気のせいじゃなーい?」

床に手をつきながら振り返った私を、女の先輩たちがクスクス笑いながら見下ろしていた。


(わざとだ…)

なんだか自分が格好悪くて情けなくて…私は床に手をついたままうつ向く。


「朝斗、今日学年集会だよー?」

「行こうよー」

私を無視するように、女の先輩たちが朝斗さんの腕に腕を絡める。


「謝れよ…」


低い声がして、その場にいた女の先輩達も、私も、ハッとして朝斗さんを見た。


「え?朝斗…?」

「一年生を突き飛ばして謝りもしないなんて、そんな最低な先輩にはなって欲しくないな」


驚いている先輩たちに朝斗さんが冷静にそう言うと、決まりが悪そうに彼女たちは顔を赤くしてそそくさと先に行ってしまった。


「…歩ける?」

膝を擦りむいた私に、朝斗さんが手を差し伸べてくれる。


“大丈夫です、歩けます。”


今までの私なら、咄嗟にそう言っていたと思う。


朝斗さんに迷惑かけたくないから、なんとかして一人で立ち上がろうとしていたと思う。

だけど私は今回、そうは言わなかった。


(すみません、朝斗さん…。でも、私…もう少し一緒にいたいんです…)


「ありがとう、ございます…」


私は…狡いことだと分かっていながら朝斗さんの手をとった。

朝斗さんに久しぶりに触れて、心臓が甘く音を増強させる。


(この手から、指先から…気持ちが伝わればいいのに。)


私は、少し前を歩く朝斗さんに手を引かれながら強く願った。


(私はまだ、変わらずにあなたに恋してますって―――…)

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