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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十一章【大切な人】
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「あの…っ、今の話どういうことですか?」

私の声に、振り返った三浦さんは怪訝な顔をした。


「…っていうか、アナタ誰?」

「あの、私…。一年一組の、香枝優妃って言います…」


(廊下で見かけたときはあんなに優しそうな雰囲気だったのに、なんでっ!?)


彼女の綺麗な眉はハの字に歪み、いかにも不機嫌そう。しかも、彼女の冷たく怖い雰囲気が全くの想定外で、私はつい怯んでしまう。


「あぁ…!朝斗の元カノって、アナタだったの」


私の名前を聞いて初めて気付いたらしく、三浦さんがそう言いながら鼻で笑う。


私は自分が見下されたように笑われたことより、朝斗さんの名前が呼び捨てされたことにショックを受けた。


「アナタ残念だったわね。せっかく自慢できる最高の彼氏ゲットしたのに。浮気がバレるなんて」

「…え?」

彼女の言葉に違和感を感じた。


彼女は何を思ったのか、ニッコリ微笑んで続けた。


「あ。私のことならご心配なく。彼にバレるようなヘマはしないし。」


(この人、何を言ってるの…?)


「朝斗さんと付き合ってるのに、合コンっておかしくない、ですか?」

「朝斗と付き合ってるのに、“他の男とデート”はおかしくないわけ?」

まるでオウム返しのように、三浦さんが無表情で言った。


ズキンと胸が痛む。

「あれはデートなんかじゃなくて…」

そんな私の小さい声(言い訳)は、三浦さんの声に呑まれる。

「ってか合コンなんて、ただの遊びじゃん?誰と付き合うとかでもないんだし。」


「私は、すごく後悔してる。三浦さんがそう思ってても相手(朝斗さん)が傷付くことをしたら、それはもう“浮気”になるんです、よ…」


三浦さんの目を見て話す勇気はなくてうつ向いたままだったけれど、私は自分の気持ちを伝えた。


私みたいな過ちで、朝斗さんに傷ついてなんか欲しくない。

もう、朝斗さんには傷ついて欲しくないんだ。

―――幸せに、笑ってて欲しい。

朝斗さんが“大切に想ってる人”に、大切に想われていて欲しい。


「ちょっと、」

三浦さんの苛立ったような声色に、私は顔を上げる。


「説教とかウザいんだけど。それに(朝斗)はみんなが羨む自慢の彼氏なんだから、私はアナタのように手放したりなんかしないわよ」


「それ、おかしい…よ」

私の口から、勝手に言葉がこぼれた。三浦さんの顔がますます険しくなる。だけど私は、止められなかった。


「そんなの、“恋”じゃない…」

「はぁ?何熱くなってんの?本当にウザい」


なんだろう、彼女の言葉はひどく攻撃的で―――。

心にドスドスッと棘が突き刺さる。


だけど私は、涙を(こら)えて言った。


(言わなきゃ、絶対に…三浦さんは間違ってるって。)

「さっきから気になってたけど…朝斗さんは、自慢するためのモノじゃないよ」


朝斗さんは確かに、いつも完璧で、余裕があって、格好良くて。誰もが羨む自慢の彼氏になると思う。

だけど…―――。


「朝斗さんは…」


本当は嫉妬深くて、弱い部分もあって。


知れば知るほど、皆が見つめる“早馬朝斗”という人は、皆の期待が作り上げた偽物で。


感情のない微笑みや余裕なふるまいを、壊せた瞬間。

私だけに心を開いてくれてるのが分かって、幸せで嬉しくて。

…とても愛おしくて。


(あぁ…。ダメだ私。)


思い出すのは、暖かい気持ち。

幸せな時間に感じた、鼓動。


(朝斗さんが、忘れられない…――――)


「三浦さん、朝斗さんと別れてください」

「はぁ、何わけわかんないこと…っ」


私が頭を下げてそう言うと、三浦さんは激怒した。

これは、俗にいう“修羅場”というものだ。


「あ、優妃ちゃん」


そんな修羅場にそぐわない、明るい声が私の名前を呼ぶ。


(…―――えっと…?)

振り返った私は、少し考えてしまった。

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