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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十一章【大切な人】
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「優妃ちゃん、今日も正門に“彼氏”さんがお迎えに来てるよー」


窓の外を見ながら、同じクラスの美樹ちゃんと明日香ちゃんが少し離れたところで翠ちゃんと話をしていた私に聴こえるように大きめの声で言った。


「えっと…。だから、一琉はただの幼馴染みで…」


放課後クラスに残っていた人達の目が、私に集中したのを感じて、私は顔に熱が集まる。


「はいはい」

「別に、そんな照れなくていいじゃん」

私の方を見てニヤニヤしながらそう言うと、二人はまた窓の外に目を向ける。

翠ちゃん曰く、美樹ちゃんと明日香ちゃんはかなりのミーハーなんだとか。


「羨ましいわー!」

「うんうん!今日も美しいよね!あの長い睫毛をふせて、スマホいじってる感じがまた、イイ!」

「あぁ、あの(● ●)、北高のプリンスが毎日お迎えなんて!優妃ちゃんいいなぁ!」


「お迎えっていうか、待ち伏せじゃん。ね、優妃」

盛り上がっている二人をよそに、ボソッと翠ちゃんが言った。

「…まぁ」

私は曖昧にそう返事をした。


―――翠ちゃんには、一琉のことを話した。

自分達はずっと幼馴染みだと分かってるから、離れようとしないでと言われたこと。

それを無下に断る理由もなくて、結局こうなってしまっていること。


すると呆れたように「じゃあもう放っておけば」と言われて以来、翠ちゃんは一琉について、特に何も言わなくなった。

だけど一琉のことはあまりよく思っていないのか、翠ちゃんは一琉の話をすると口調がいつもに増してきつくなるので、何となく一琉の話題は気まずい。


「なになに、それ!どーゆーこと?」

地獄耳なのか、美樹ちゃんと明日香ちゃんが翠ちゃんの言葉を聞き逃さなかった。

勢いよく迫ってくる二人がなんだか怖くて、私は咄嗟にゴミ箱を掴む。


「あ、えっと。私日直だからゴミ捨てしなくちゃ…」

私はその場から逃げるようにゴミ箱を持って、そそくさと教室から出ようとした。


「あ!じゃあ私たち、少し遅くなるって彼に帰り際伝えといてあげるよ」

美樹ちゃんがそう言って、翠ちゃんに迫るのをやめるやいなや、帰り支度を始めた。


「あ、ありがとう」


「っしゃー!話しかける口実ゲットー!」

「キャー!夢見たーい!!」

明日香ちゃんとそう騒ぎながら、バタバタと廊下を走り、二人は帰っていった。


「人生楽しそうよね、美樹と明日香って」

翠ちゃんが苦笑いで、そんな二人の姿を見送っていた。



(“待ち伏せ”…―――)

ゴミ捨てに向かいながら、私は翠ちゃんの言葉を思い返していた。


一琉とは、朝は家からバス停まで、帰りは学校から家までほぼ毎日一緒だ。


(この感じは、中学時代と同じで…――なんだか懐かしい)


違っていることといえば、一琉が私に優しくなったことと、私が幼馴染みとして傍にいる一琉に嫌悪感を抱かなくなったことだった。


(だけど、もう…()めなくちゃ…)

優しい一琉に甘えて、一琉を傷付けるのは。

幼馴染みだからといって、傍にいることに慣れるのは。


(だって、私はまだ朝斗さんを…―――)


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